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第169回「夢の競演」

2019年10月01日

株式会社マネーパートナーズ   ホームページ寄稿 2019年 10月

 貿易不均衡是正を巡っての関税紛争に始まった米中経済対立はあれよあれよという間に世界の覇権を争う歴史的な文明の衝突という大騒ぎになってしまった。将来の歴史学者達にとって二〇一〇年代の世界史は劇的な動乱の時代だったように見えるかもしれないが、現にその時代を生きている我々からすると米中関係というのはもう何十年も一発の銃声も聞かない平和な世界なのである。

 個人同士でも国同士でも同じだが、我々は利害関係のある相手のことを正しく理解しようと努力するし、その結果、それなりの判断を作り上げるのである。しかしその判断が正しいかどうかは全く判らない。それは能力の問題でもあるが、むしろ日々刻々生々流転する事象の故であろう。歴史というのはこういう悪戯の積み重ねなのかもしれない。

 一九八〇年代、中国には鄧小平という稀有の指導者が登場し、開放改革政策の下で人類史上もっとも劇的な経済発展を達成した。しかも韜光養晦という巧妙な戦術で、米国の覇権に挑戦する意図は全く無いように振舞った。

 米国はこういう中国を見てすっかり勘違いしてしまったのである。第二次世界大戦と冷戦での勝利を経て、米国は世界の指導的国家としての地位に自信を持ち、米国の理念、つまり自由な民主主義が世界の理念になることを信ずるようになっていった。中国は今のところは共産党独裁国家だが、経済が発展し、所得水準が上昇すれば、国民は必ず自由な民主主義を選ぶようになると本気で思ったのである。だから、米国の中国政策は中国の経済発展を支援し、開放改革を促進して、その民主化を早めることであるべきだと考えられた。壮大なる誤解だった。

 誤解だったことが判明したのは二〇一三年に習近平政権が誕生して、中国が初めて米国の世界覇権に対する挑戦者として名乗りを上げてからであった。

 習近平がこの歴史的決断をした背景には国外二つの事情があった。一つは、新生中国の発展が予想以上に成功し、二〇〇年の屈辱と雌伏の時を終えて中華帝国を再現する日が視野に入ったと思ったことである。もう一つは、理想的と思われた米国の自由な民主主義や効率的な市場経済がいろいろと齟齬をきたし内外で批判が高まったことである。衆愚の多数決で是否を決する民主主義は非効率で不公平になりやすい。それと比べれば、中国の古代帝国のように民情と民意に通じ、過ちを犯さない有徳の天子による治世が理想である。中国共産党は正にこの天子に匹敵する指導者であるという確信であった。

 こうなると米中の対立は最早貿易不均衡というようなレベルの話ではなくなってしまう。根源的な世界観の対立、つまり西欧文明に根ざす自由な民主主義と個人の尊厳という流れと、それに対する黄河文明に遡る英邁な君主による民の統治という世界秩序の問題になってしまった。文明の衝突という言葉が使われたのはこういう背景があったわけである。

 最近中国共産党政権は国内で言論統制、思想統制を強めている。知識階級の中にこういう統制強化に対して批判的な呟きがあることは事実だが、公然としたものにはなっていないし、ましてや反政府的動きには全く結びついていない。一般大衆のレベルでも共産党政権に敵対しようという動きは皆無であろう。

 共産党政権の安定にはそれなりの理由がある。一般大衆の立場からすれば、スピードは落ちたとは云え、生活の実態が向上しているという現実は依然として厳存している。若者の八〇%が明日は今日よりも良くなると思っている。上流・知識階層の場合は、心理的・知的不満はあるにせよ、同時に逃げ場所も徐々に拡大しているのも事実である。海外旅行もほぼ自由だし、かなりの数の中国人が欧米諸国で二重国籍や永住ビザをもっていると云われている。つまり、共産党政権の悪口さえ云わなければ、物質的・文化的贅沢を世界中で享受できるのである。

 しかし、中国の人達は本当にこれからも言論や思想の自由とか個人の尊厳という価値を求めることなく生きて行くのだろうか?生きて行けるのだろうか?これは二十一世紀の世界にとって最大の疑問だろう。そしてその答えは勿論まずは中国人の仕事だが、同時に半分は米国人の仕事だとも思う。最近米国型の民主主義について批判が多いのは、格差の拡大とか犯罪の増加とか現実に発生している悪い現象があるからである。だが米国の自由な民主主義社会が持つ歴史的・世界的な価値を論じようと云うのであれば、その真髄であるアメリカン・ドリーム、つまり誰もが坂の上の雲を目指して歩み始めるチャンスを与えられるというドリームが健在であるかをみなければならない。

 実は現在米国が抱える最も深刻な問題の一つは正にこのアメリカン・ドリームが多くの米国人にとって手の届かないものになっていることなのである。アメリカン・ドリームの無い米国は中国に勝てないだろう。中国はすでにアリババやテンセントはチャイニーズ・ドリームだと自負している。

 アメリカン・ドリームが復活すれば中国の人達は言論や思想の自由の普遍的価値を認識するようになると私は考える。その成否は、大統領が誰であろうと、米国人の責任なのである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。


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