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第146回 「習近平時代の中国」

2017年11月01日

株式会社マネーパートナーズ   ホームページ寄稿 2017年 11月

 習近平第二期政権がスタートして、共産党が率いる中華人民共和国はいよいよ第三の時代に入った。第一の時代は云う迄もなく、1949年の建国後30年に亘った毛沢東の時代である。毛沢東は労農階級による支配という革命イデオロギーを核とした共産主義国家の樹立を目指した。その中では大衆への奉仕、清廉、毛と党への忠誠という個人レベルの道徳的規範も要求された。毛の認識ではその過程は修正主義との絶え間ない斗いであり、換言すれば永久革命だった。傍から見れば狂気の沙汰のように思える文化大革命も、この文脈から考えれば当然の帰結であったのである。しかし、経済政策は、毛沢東自身の無智もあり、絶望的なものだった。彼が死に、文化大革命が終った1976年当時の中国の経済・社会情勢は混乱の極にあり、今から考えると、よくも国が崩壊しなかったなと感心するばかりである。

 第二の時代は鄧小平の登場と共に始まった。彼は毛沢東の負の遺産を清算して、中国経済を回復・発展させ、国民の活力を引き出すために、革命的な政策を導入した。彼の発想は天才的としか云いようがない。鄧政策とは第一に共産党独裁という政治機構を堅持しながら共産主義のイデオロギーを放棄し、大衆の金銭的・物質的欲望を解放したことである。「白猫でも黒猫でも、鼠を捕る猫が良い猫だ」という彼の言葉は彼の思想の真髄を実に良く表現している。第二に外資の進出を認め、先進国の技術と中国の廉価高質の労働力が結合して圧倒的な国際競争力を持つ製品、とくに耐久・非耐久消費財、を造り出す基盤を整備したことである。この改革開放政策の成果は驚異的だった。30年で中国は世界第二の経済大国になり、多くの分野で世界最大の生産国、消費国となった。鄧小平時代の中国経済の発展は人類の経済史上もっとも画期的な出来事であったことは間違いない。

 しかし、30年を経て鄧小平政策は賞味期限を終えた。第一に、イデオロギーとモラルを捨てた共産党統治が必然的に生んだのは広汎な腐敗、汚職とその結果拡大した経済的・社会的格差だった。それが放置されれば、間違いなく政権への不満と反感が湧き起っていただろう。第二には、急速な成長・拡大に伴なって生ずる経済的制約である。大気・水等の環境汚染はその最たるものであろう。さらに、資源の涸渇や取り残された農民の問題もある。それは一般大衆生活に直結するものであるだけに、その政治的・社会的緊急度は高いのである。

 中華人民共和国第三の時代である習近平時代はこのような政治的経済的課題を負って登場したのである。あるいは、こういう課題があったから習近平のような指導者が登場したと云えるかも知れない。そして忘れてはならないのは、習時代はこういう国内的課題に加えて、毛時代や鄧時代にはなかった、「中国の国際的役割」という歴史的な大問題をも背負っているということである。

 国内問題についての習近平政策は一言で云えば、「粛正による組織浄化」と「小廉経済の達成」であろう。鄧政策の副作用として生まれた腐敗を直すにはモラルの復活が必要であろう。しかし、共産主義が本来持っていた草の根の倫理性はもう捨て去られており、今更取り戻すことはできない。儒教を再活用することも考えられたが、政治的リスクが大き過ぎる。となれば、残るのは粛正しかない。王岐山の豪腕の下で進められたキャンペーンが腐敗の根治にどこ迄役立つか、答はまだ出ていない。

 経済面での課題は多くの中進国に共通するものと考えて良いだろう。急速すぎる成長によって生ずるさまざまな制約を回避するためには、成長の速度を抑制すると共に、資源配分を変えねばならない。二桁成長は論外であり、持続可能なスピードは5~6%ということだろう。しかし、中進国の罠にかからず、国民の政権への信頼を維持するためには、まだ相当程度の成長を続ける必要がある。中国の現在の一人当りGDPは8,000ドル程度だが、これを10年間で16,000ドルに倍増するためには、人口が不変としても、7%近い成長が毎年必要である。中国にとって、安定した国際・国内環境の下で、安定した成長を続けることが至上命令であり、そのためには必要に応じて企業や家計の経済活動を微調整できることが不可欠だと信じられているのである。習政権の経済政策が市場重視から統制指向に転換しているのはこのような情勢判断が背後にある。欧米や日本ではこういう政策が時代逆行であると非難する声が高い。しかし習政権にしてみれば、21世紀の欧米日経済が市場に翻弄され悪戦苦斗しているのを見るにつけ、自分達には「市場に任せる」という贅沢をしている余裕はないというのが本音だろう。

 習政権の対外スタンスもこういう国内情勢を背景にして評価される必要がある。中国は長らく米国による世界の一極支配体制に反撥して来た。それは米国の反共政策によって中国が不当に押え込まれていることへの反撥であった。しかし、そうは云いながらも自らの実力から考えて、国力増強に努力を続けるしかないというのが鄧小平の「韜光養晦」政策だったわけである。

 21世紀に入って中国の対外政策が急速に自己主張を強めてきたのは、自らの力への自身の高まりと、米国側の敵失の相乗作用の結果である。中国はあっと云う間に日本を抜き去ってGDP第二位、最大の生産・消費市場となった。中国企業の規模と競争力は米国に次ぐ。技術の分野でもかつては「真似るか、盗むか」であったのが、急速に向上し、欧米にキャッチ・アップしている。軍事力の向上は言を俟たず、外交・文化の面でも存在感を高めてきた。これだけの実績が上がれば、国民の自信が高まるのは当然であり、指導部としては、それが国際的に認知されるようにすることが、国民の政権への信頼維持に不可欠になってくるのである。

 これに対して、米国は依然世界最強の国家であることは変りないが、自らの過失で多くの手傷を負ってしまった。イラク、アフガニスタンへの過剰介入で自らの軍事力・経済力に負担をかけたのみならず、イスラム過激派との敵対を決定的なものにしてしまい、2001年の9・11テロに象徴される全世界的なテロとの戦いが始まってしまった。国内では、1990年代に始まった金融・IT革命への対応が遅れた結果、経済・社会における格差の拡大と分断が激化し、トランプ現象のような政治的混乱を引き起した。米国のこのような失態は世界の指導者としての米国の威信を傷付け、国際的な評価を低下させた。

 こうした内外の状況の変化に觸発されて、19世紀始め迄世界最大の国であった中華帝国に対する中国人の郷愁が覚醒されたとしても不思議ではないだろう。中国は今や雌伏から醒める時が来たと感じているのである。習時代の中国の対外政策は内外古今の諸要因によって生まれた必然的な歴史現象として理解される必要がある。

 習時代の中国はどうなるのだろう。

 経済問題のデリケートな難しさは述べた通りである。国民が納得するような小廉経済を安定的に維持することはどんな体制の下でも容易なことではない。しかし、中国における最も根源的な課題は、鄧小平時代に放棄された国、社会、個人としての理念・イデオロギーをどう再構築するかではないだろうか。欧米諸国には中国はいずれ自由、人権・デモクラシーという、彼等によれば人類普遍の、理念を受け容れるようになると信じている人が多い。中国にもそれに同意する人がいたことも事実だが、習時代の中国はそうではない。欧米イデオロギーに対する彼等の反撥と不信は危険な迄に強いことを認識する必要がある。モラルの崩壊で生じた腐敗に対処するため、習政権はモラルの復活ではなく統制強化と粛正を選んだ。これは成功するだろうか。権限のあるところには必然的に腐敗が発生する。統制の強化が権限の維持につながるとすれば、腐敗は無くなるのだろうか。

 習政権は既存産業においては国有企業の強化を通じて国際競争力を高め、政府のコントロールを強めている一方、IT関連の分野では徹底して民間企業家の創意を解放し、支援し、市場の拡大を認めている。習政権は米国の強さは自由や人権にあるのではなく、企業部門の強靭なイノベーション力にあると理解している。それは間違っていないのだろう。その上で、習政権はビッグ・データ、IOT、AIなどのIT分野の技術進歩が国民大衆の意識や行動の理解やそれを誘導することにどんな力を持ちうるかに強い関心を持っているように見える。計画経済というものを市場経済と対立するものでなく、それを包含する政策体系にすることはできないだろうかという発想なのかも知れない。いずれにせよ、計画・統制の強化・継続が長期的なイノベーションの活性化と両立できるかが今後の鍵だろう。

 国際政策における習政権の立場はそれ程複雑なものではないと思う。先に述べた通り、中国は世界における米国の単独覇権には絶対反対である。しかし、中国が米国に代って世界の覇権国家になろうという希望も意図も全くない。習政権は中国の力を知っているし、何よりも、覇権国家になることがどのような致命的負担を斉らすことになるのかを、米国を見て良く理解している。

 習政権がのぞんでいるのは、中国が米国と住み分けて、日本を含む北東アジア、東南アジア、西太平洋、インド洋から中央アジアに及ぶ「アジア」の盟主となることであろう。このアジアは中国を中心とする経済圏となり、人民元を地域の基軸通貨として投融資、貿易が行なわれることになる。安全保障の面では米国ではなく中国を中心とした二国間、多国間の協定の網が作られることになるだろう。

 このような中国中心のアジア圏が成立するかどうかは、第一に米国が単一覇権国の負担に倦んで中国との住み分けを受容れるかどうかにかかっている。第二にはアジアの主要国、日本、インド、ASEAN等が中国は信頼するに足るアジアの指導国家であると認知するだろうかという問題である。

 アメリカは簡単に中国との住み分けを受け容れることはない。その場合、米中関係は緊張した対立が長期に亘って続くことになる。中国は米国との力関係が余程有利にならない限り、自国経済に大きな損失をもたらすような本格的武力抗争に突入することは決してしない。そうではなく、時は中国に有利に傾いていることを信じて、忍耐強く待ち続けるのだろう。熟柿が落ちるのを待つ政策である。他方、米国が中国の予想通りにゆっくりとした凋落を続けるのか、再び活力を取り戻すのかも、神のみぞ知ることだ。

 日本の隣国はこういう国なのである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

コラム一覧

鈴木郁雄の実践トレーディング 外国為替古今東西 行天豊雄 外貨投資 転ばぬ先の智慧 田嶋智太郎
市場養生訓 小口幸伸
為替大観 小池正一郎
為替の話・トレンドを掴め! 木村佳子
武市のなぜなにFX 武市佳史

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