今回は、トランプ政権の解説に出てくる「アニマル・スピリッツ」について触れてみたい。この言葉は2025年のキーワードになるだろう。
その前に、現在の為替情勢を整理しておきたい。全体に、12月6日(金)を挟んで、先週ドル下落、今週ドル上昇の展開となっている。ドル円とユーロの動きを確認する。ドル円は1週間前の予想と比較すると、150円定着とはいかなかったが、方向性は予想通りとなった。円高は149円台でとどまり、今週には150円台に乗せた後に続伸、150円台定着の様相である。執筆時点(18時半)では152.40円を超えてきた。今年のレンジ(高値161.95円、安値139.58円)の中値が150.77円、この水準を完全に上抜けしたことで、今後のドルは堅調に推移していくと考えている。
この動きの背景は、先週末の雇用統計にある。前月のマイナス特殊要因(ハリケーンとストライキ)の回復が物足りないとの分析から、FRBは利下げへの理由付けができる数字だとの見方が広がったことで、金利・ドル相場ともに低下した。しかし週明けには、今月のFOMCの利下げ確率こそ高まったものの、来年1月以降の継続的な利下げ見通しが後退したことや、アニマル・スピリッツ(後述)の再認識が出て、ドルは買い戻されたとみている。
一方、ユーロ相場については、12日のECB理事会を控えて、また独仏の政治的な懸念材料とあわせて、今週に入ってユーロは下げ相場を強めており、対ドルでは週間を通して往って来いとなった。一方で対円は、予想が157.00-160.00円に対して、実績はこの20分余りのドル円の上昇によってユーロ円が上昇、瞬間160.35円までユーロ高となっており、週間レンジは156.98-160.35円となった。ほぼ予想通りと言ってよいだろう。
しかし、一番大きく変動した通貨は豪ドルであった。過去11週間、1週(11/18週)を除いて、10週陰線となっていることだ、昨日の豪州準備銀行(中央銀行)が、政策金利を4.35%と9回連続の据え置きを決めたにも拘らず、引き下げ傾向は維持、声明内容もハト派的であったことが、豪ドル安に結びついた形だ。為替相場の下げ幅は、9月30日の0.6942をピークに、今日の安値は0.6344と11週間で8.6%の下げ幅である。ちなみに豪ドル/円は、直近の高値(豪ドル史上最高値)が7/11の109.37円(7/11)に対し、今現在は96.87円で豪ドル安である。下落率は11.4%と大きい。
さて、アニマル・スピリッツであるが、最初は、英国の著名な経済学者・ケインズが、有名な著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」で提唱した概念である。簡単に言えば「感情に動かされる市場行動の変化を言う」ことになる。この言葉が注目されたきっかけの一つが、米国の著名なエコノミスト・ヤルデニ氏が、「2029年末までに米国株のS&P500が10,000の大台に到達する。理由はトランプ大統領の経済政策がアニマル・スピリッツを呼び起こしているからだ」と述べたこと(11月11日)だ。まさにトランプトレードの幕開けとなった。トランプトレード自体は最近調整局面となっているが、米国株価は頻繁に史上高値更新を続けている。「トランプ次期大統領の減税と規制緩和政策がその原点」となっている。2025年はこの「アニマル・スピリッツが広がっていくか、期待を削ぐことになるか」が、相場展開(為替相場を含めて)の動向を決めていくことになるだろうと、注目していきたい。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、まず本日のCPIが重要だ。市場予想(カッコは前月実績)は、総合は、前月比0.3%(0.2%)、年率2.7%(2.6%)、コアが前月比0.3%(0.3%)、年率3.3%(3.3%)である。ドル円は、米国物価が下げ止まりから上昇に転じる見方も増えていることからドル堅調維持を想定し、150.80-153.80円と予想する。一方欧州通貨は、ECBの利下げ予想が強まっていることからユーロ軟調と考え、今週は対ドルで1.0300-1.0600と引き続きユーロ軟調を予想、また対円では158.50-161.50円とユーロ安と予想する。英ポンドドルは、1.2600-1.2800とポンドの底堅い展開を予想する。
(2024/12/11、 小池正一郎)