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市場養生訓

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第864回

2021年06月08日

 スイスのリゾート地のダボスで毎年開かれる世界経済フォーラムはダボス会議として有名だが、そのロシア版であるフォーラムが先週サントペテルブルグで開かれた。その中で財務大臣がロシアの国家ファンド(SWF)の新たな通貨構成を明かした。
 ドルを大幅に減らし、ユーロ、人民元、金を増やす。具体的にはドル0%、ユーロ40%、人民元30%、金20%、残りはポンドや円だ。目立つのはドルのポートフォリオを従来の35%からゼロにすることだ。ちなみにこのSWFの規模は千数百億ドル程度でそれほど大きくはない。
 ロシアは6千億ドルほどの外貨準備の通貨構成でもドルを減らして、ユーロと人民元を増やす傾向を採ってきた。だが一定額のドルは維持している。
 ロシアがドルを減らす理由は米国の経済制裁だ。経済制裁の一環でドルの決済が不可能になれば国際取引に支障が出る。だからドル依存体制から脱却を望む。
 と言っても世界はドル基軸体制で回っている。原油取引の決済でもドルだ。世界の外貨準備でも6割がドルだ。世界の為替市場ではドル取引が9割ほどを占める。ロシア一国でドル離れを試みても影響はほとんどない。そこで同調者を増やすためにこれまでもいろいろな機会を通じて情報発信してきた。そうした政治的意図がなければロシアのような秘密主義の国が通貨構成を明らかにするはずがない。
 外貨準備の通貨構成については各国の中央銀行などがIMFに情報を提供し、IMFが全体をまとめて通貨別の数字を公表している。だから個別の国の情報はその国が独自に公表しない限りわからない。ただ他のいろいろな情報から推定できることもある。
 世界最大の3兆ドル以上の外貨準備を持つ中国は通貨構成を公表していない。
 中国もロシアと同様、ドル基軸体制からの脱却を望んでいる。その点では考え方は一致している。だが戦略が異なる。中国は人民元を国際通貨としてドルにそん色ない地位に引き上げることを望む。そのために人民元建ての原油先物市場を創設したり、人民元をSDRの構成通貨に組み入れた。ロシアはルーブルについてそうした野望は持たない。あくまでドル一極体制の終焉が実現すればいい。
 中国はロシアのように大胆にドルのポートフォリオの減少には動いていない。中国は外貨準備のうちでドルの構成比は6割弱と推計される。そのうち1兆ドル以上を米国債で運用しているが、それを短期間で大幅に減らそうとすれば大きな損失を被る可能性がある。しかもその売却代金を運用できるような市場を他に探すのは難しい。米国の資本市場の厚みと金融商品の多様さはドルの魅力を支えている。
 中国は通信、宇宙、軍事など、多くの面で米国に追い付こうとしてきた。そうした分野での差は急速に縮小してきた。だが金融の分野での差は依然として大きい。
 中国はその差を埋めるため、米国の代表的金融機関のブラックロックやゴールドマンサックスなどに中国市場への進出を促した。中国の国営銀行とのタイアップで巨大な顧客市場に乗り出すことを当局が認めた。その一つの中国工商銀行の顧客数は米国の人口の2倍以上ある。米国の金融機関にとって政治的リスクがあろうともその市場がもたらす蜜を無視できない。
 中国はシャドーバンクや利回り保証などで乱れた国内市場の立て直しを米国の金融機関に託した。そして運用やリスクマネージメントの手法の獲得、人材の育成を狙う。
 その成果が表れる頃には人民元の国際通貨としての地位は上昇し、ドルの背中が見えるくらいにはなっているだろう。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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