新型肺炎ウイルスの感染拡大に関して、市場の関心が米国内の状況に集中しはじめている。先週5日にカリフォルニア州で初めての死者が確認されたり、先週6日に4つの新たな州で感染が確認されたりするなど、事態は悪化の一途を辿っているようにも見え、そうした報せが飛び込んでくるたびに市場の警戒感は強まっている。
ほんの2週間ほど前まで、まるで「対岸の火事」を見るかのような冷静さを保っていた米金融市場のムードもここにきて急変した。乱高下を続ける米株価の極めてボラタイルな値動きも結構ショッキングだが、何より米10年債利回りが連日のごとく過去最低の水準を更新し続けている状況には少々ゾッとさせられる。
あろうことか、米10年債利回りは先週6日に一時0.65%台まで急低下。そうした状況を実際に目の当たりにしても「何かの間違いだろう」、「システムトラブルではないか」などと思ってしまうほどの異常事態。システム売買の為せる業であるところが多分にあるとするなら、それは文字通り「人智を超えた」ところでの動きである。
先週5日、ブルームバーグの電話インタビューに応じた門間一夫みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト(元日銀理事)曰く「リーマンショックと違って既存のビジネスモデルが壊れた訳ではなく、地震と違って供給能力も破壊されていないため、感染さえ収まれば経済が回復するシナリオは十分立てられる」。今は、まさにこうした認識が重要なのではないかと思われる。
同じ日(5日)の日本経済新聞「大気小機」で、ペンネーム「恵海」氏は「1918~19年に世界で大流行したスペイン風邪は2~3波襲来しており、楽観は許されない」などという私見を披露していたが、果たして現時点で『スペイン風邪』を持ち出してくるというのはいかがなものだろうか。もちろん、複数の仮説が立てられて当然なのであるが、仮に有効な治療薬などが早めに見つかったりすれば、いま市場で見られている「過剰としか思えないマイナスの反応」が今度は真逆に作用することとなってもおかしくはない。
過剰と言えば、この2週間ほどのドル/円の下げ方についても「少々行き過ぎではなかったか」との感を禁じ得ない。米債利回りの異常な低下ぶりを考えれば、ある程度は無理もないと言えるところもあるが、ウイルス感染拡大の悪影響はどう見ても米国より日本の方がずっと深刻である。少し前まで耳にすることも多かった「日本売り」との声は一体どこへ消えてしまったのであろう。
週明けのドル/円は一時的にも104円を割り込む場面を垣間見ており、2月下旬に一時112円台に乗せる展開となっていたことが、まるで幻だったかのよう。2018年以降のドル/円は105円を割り込むと、決まってそこから切り返すといったパターンを繰り返してきていたのだが、今回は状況が異なるということなのだろうか。2016年6月安値から同年12月高値までの上げ幅に対する76.4%押しは103.62円処であり、一応は確認しておきたいが、異常事態で「パニック」が生じていることも確かであり、少し市場が冷静さを取り戻すまでは様子見に徹するのが無難と言えよう。
なお、足下でドル安傾向が強まるなか、ユーロ/ドルが非常に強い動きとなっていることも印象的ではある。先週の週足ロウソクは31週移動平均線を上抜けるところからスタートし、長い陽線を描きながら一目均衡表の週足「雲」下限、62週移動平均線を次々に上抜け、週末6日には一時的にも週足「雲」上限付近にまで到達する場面があった。
週明け9日のオセアニア時間には一段の上値を試す動きとなり、とりあえず週足「雲」上限を上抜ける動きとなっているが、これも少々パニック的。冷静に考えれば、ウイルス感染拡大の影響はユーロ圏においても甚大であり、いずれその点が材料視される局面も再来するものと心得ておきたい。
(03月09日 09:05)