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外国為替古今東西

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第77回 「国債値崩れのきっかけ」

株式会社マネーパートナーズホームページ寄稿 2012年2月

 1ドル60円になる、50円になるというような元気の良い声が聞かれる一方で、日本の財政破綻、日本国債の値崩れを予想する海外投資家の声は、非常にゆっくりとではあるが、着実に高まっている。南欧諸国の財政危機が日本の状況についての類推を促しているのは当然である。しかし、同時に、そういう衆目の眼前で繰り拡げられている民主党と自民党、民主党内部、メディアと国民による論議を聞いていると、ひょっとして日本という国は、丁度歌舞伎のドラマのように、明らかに非条理だと思われる結末に、自らを追い込むことをあえてする国民なのかも知れないという想いもあるのである。

 周知のように、日本国債は値崩れしないという論拠は多い。95%は居住者によって保有されており、外貨建資産に対して拒否反応が強い。家計部門は貯蓄超過であり、金融資産は1、400兆円あって政府債務より大きい。日本は恒常的な経常収支黒字国であり、対外純資産は世界有数である。日本国民の租税負担率は主要国中最低であり、増税の余地が大きい。日本銀行はまだまだ国債保有を増やすことができる。等々。

 これだけ論拠があれば値崩れは起らない筈だが、問題はこの論拠のすべてがもう持続しないのではないかと思われ始めていることである。高齢化の急速な進行で家計の貯蓄超過は減っている。エネルギー政策の混迷で輸入が増え続け、製造業の海外移転で輸出が頭打ち、貿易収支の赤字が拡大する。増税もできず、社会保障費も削れなければ政府赤字は増え続け、いずれ経常収支も赤字化する。国債の国内消化は難しくなり、海外保有比率は上昇する。格付けの引下げが起る。

 問題は、仮りにこのような事態が実現した場合、何時、どういうきっかけで、日本国債の大量売りが発生するかである。最大の保有者である日本の銀行・保険会社が率先して売り始めることは多分ないだろう。やはり海外の投資家が何処かの時点で日本国債の信認が臨界点を越えて下落したと判断し、CDSや先物市場で売りを仕掛けるのだろう。たとえ5%であっても、外国投資家が一斉に売り始めた時、95%の国内投資家は総崩れになる。大量保有の金融機関は損切りのために先を争って処分に走る。政府機関や日銀による買支えが成功するかどうかは、それがどういう政策パッケージの中で行なわれるかにかかっている。成功しなければ、インフレ予測の急騰と円の暴落ということになる。

 しかし、大切なことは、こういう事態はまだ防ぎ得るのだということである。海外の投資家に日本国債の信認は維持されるという見通しを持たせることができれば、誰も損を覚悟で賭けに出ることはない。そのために何をすれば良いかは日本人が一番良く知っている筈である。

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プロフィール

  • 著者近影行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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