●「静かなるドル安」が進行中
今週の為替マーケットは、全般的に小幅な値動きながら米ドルが日本円と英ポンドを除く主要通貨に対して全面安の展開となっている。
「静かなるドル安」――といった感じである。
3月4日付けの当レポート「通貨売りの標的は欧州通貨から米ドルへ」では、当面の米ドル安の二つのリスクシナリオを紹介し、今週は米長期金利の上昇をきっかけとする「トリプル安」のリスクについてレポートしてきたが、まったくの杞憂に終わってしまった。
米財務省が昨日実施した130億㌦規模の30年債入札は、応札倍率が2.89倍と過去6回の30年債リオープン入札での平均2.58倍を上回る強い需要が見られている。
とはいえ、海外の中央銀行や大手機関投資家からの需要はさえず、間接入札者比率は約24%にとどまるなど、前日の10年債入札と同様に海外勢からの人気は芳しくないようだ。
世界最大の債券ファンド運用会社PIMCOのマネジングディレクターで「The Bond King(債券王)」の異名を持つグロス氏は、"米国債は買う気になれない"と断じるように、史上最悪の財政赤字を抱える米国債は"平時"では買えないのである。
ではいったい誰が米国債を買うのだろうか?
それは、米経済の厳しい現実をよく理解している連中(大手金融機関)が買っているのである。
ここでいう厳しい現実とは、米経済が日本の「失われた10年」と同じ状況に陥っているということであり、大手米銀はFRBから超低金利で資金を調達し、米国債で運用して利ザヤを稼いでいるのである。 勿論、彼らが米国債を買ってくれれば、長期金利は低位で安定することになり、米金融当局にとってもメリットがある。
FRBが昨日発表した2009年10-12月期の米国家計の純資産額は株高などの資産効果により、前期比7千億㌦増加し54兆2千億㌦に改善したことが明らかになった。
しかし、純資産増加の大半を占める金融資産の推移を見てみると、右表に示すように2009年4-6月期から3四半期連続で増加しているものの、10-12月期の増加額は6,770億㌦と、4-6月期の1兆7,550億㌦や7-9月期の2兆4,740億㌦を大幅に減っていることがわかる。
つまり、オバマ政権の政策総動員による「株高演出」が功を奏したものの、住宅を含む有形資産の伸びが鈍化していることがわかる。 足下では、3四半期連続で資産が増加する一方、債務は5四半期連続で減少しているが、これは米家計が消費支出を抑えて借金返済に動いていることを示すものであり、米経済が金融危機前のような成長軌道には乗れないことを示唆している。
尚、家計の純資産額がリセッション(景気後退)前の65兆9千億㌦に戻るためには、さらに21%増加する必要があり、家計の借金返済、つまりバランスシート修復の動きはまだまだ先が長いということになる。
ここまで書けばもうお分かりであろう。
オバマ政権は、米経済の原動力をこれまでの「内需(個人消費)」から「外需(輸出)」にシフトさせており、昨日は1月に打ち出した「輸出倍増」計画の推進策を発表している。
「IS(貯蓄投資)バランス」の動向を示すマクロ恒等式では、民間部門が借金返済(=貯蓄超過)を行えば、政府部門の財政赤字の拡大や経常収支の黒字化(赤字の場合は改善)を伴うことになる。
もっとも、米財政赤字は2009会計年度で史上最悪の1兆4,171億㌦に膨張しているため、ISバランスの経常収支の改善、つまり輸出拡大が重要な成長戦略となってくるわけである。
これはドル安政策を展開するという短絡的なものではないものの、現在のポリシー・ミックスの組合せからはドルの下落が持続的な政策となってくる点は念頭に置いておきたい。
(3月12日 11:05記)
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