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第432回
JPモルガンがクレジットデリバティブの取引で20億ドルの損失を出した。ポジションはまだ抱えているので、清算すればさらに損失が膨らむ見込みだ。これらは銀行の諸業務から生じるリスクをヘッジするための取引だと言う。
たしかに長期のリスクや異なる市場のリスクをヘッジするにはフルヘッジは不可能なので、ベーシスリスクなどは残る。しかしたとえJPモルガンの自己資本比率への影響は軽微だといっても、20億ドル以上の損失を出すのがヘッジ取引と言うには無理がある。
こうした取引がヘッジ取引としてまかり通り、VAR(value at risk,最大損失を計るリスク管理の方法)が1億ドルを超えない程度だったというから、リスク管理の手法自体が不適切だったということになる。
CEOのダイモンは先月これらの取引の危険性を指摘された時、コップの中の嵐だとコメントした。確かにVARが1億ドルにも満たないくらいなら、そう判断しても無理はない。部門の責任者も同じだろう。
もちろんロンドンの鯨と称されたポジションを作ったディーラー本人は、どの程度の損失を抱えていたかはわかっていたはずだ。だが、彼の上に何人上司が居たかわからないが、直属の上司以外は取引の内容さえ理解していなかったのではないか。
せいぜいVARをみるくらいで、それよりも自分のボーナスの額への関心が強いのだ。実際にリスクを張っている者が稼いだ利益を、組織のヒエラルキーの至るところで「自分の利益」としてボーナスに反映させるシステムがそうさせる。
巨額損失事件は跡を断たない。多くは担当ディーラーの個人的資質やモラルに原因を求めようとするが、不適切なリスク管理の方法,杜撰なアカウンティング、無能で強欲な上司、経営者のほうが重要な要因だ。
ダイモンは、JPモルガンで三番目に高給の部門責任者を始め、担当ディーラーなど数名を首にしたようだが、これで一件落着とは行かないだろう。
米国の金融機関は、商品開発力や取引遂行能力で優れ、資本市場の担い手として米国への資本の還流に多大な貢献をした。それによってドルを支えた。今回の金融危機でその有力な担い手であった投資銀行は力を落とし、姿を変えた。そうした中でJPモルガンは金融機関の数少ない期待の星ではあったはずだ。
今回の損失の処理を巡る経営や当局の対応などにもよるが、傷が癒えつつあったドルにとっても痛い出来事だ。
プロフィール
小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。
元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。
横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


























