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第110回 「個人プレーを競う」

2014年11月04日

株式会社マネーパートナーズホームページ寄稿 2014年11月


 世界経済は各国が個人プレーに集中する競演場になってきた。米国は如何にしてQEを終えて金融政策を正常化するかが最大の関心事である。しかし実体経済の動向は仲々微妙で一直線に政策転換というわけには行かない。雇用も投資も消費も一歩前進、半歩後退を繰返していて、見通しが全く明るくなったとは云えない。景気後退の招来も、バブルによる金融危機の誘発も絶対に避けねばならぬから、FEDの動きは非常に慎重である。その念頭にあるのは米国経済の成長軌道再現であって出口政策が他国の及ぼす影響に配慮する余裕は全くない。ドル高は好ましくはないが、成長に悪影響が出ない限り、問題にならない。


 EUはあとからあとから問題が出て来て、その対応に文字通り精一杯だ。デフレへの転落の危機は目前に迫っている。他方、成長力、競争力回復のための改革をどう進めるか、ぜい弱な銀行部門の強化ができるか、政治の右翼化、大衆化は防げるのか。今や名実共に指導者となったドイツは一体今後のEUをどうしようとしているのか。対口制裁やエボラ熱などの余分な荷物も加わった。ECBはさまざまな制約の下で精一杯努力はしているが、とても金融政策だけでどうにかなるような状況ではない。こんな有様だから、リーマン・ショックの時と同じで、EUの輸入減少が世界の景気を冷やしていることなどを気にするわけに行かない。


 日本も脱デフレ政策がいよいよ正念場に入った。大胆な量的・質的金融緩和で将来への期待に変化をもたらそうという政策は見事に成功した。次のもっともクルーシャルな局面はその成功で如何に現実の消費・投資・雇用行動が活性化するかである。そのためには、期待を変化させる刺激を与え続けることも必要だが、20年間堆積した沈滞心理を払拭するというのは実に大変なことなのである。それは単に流動性のアベーラビリティーとかリスク・プロファイルの変化という金融世界の目先の話だけではない。日本という国の中期的な将来への確信が生まれるかどうかという話なのだ。脱デフレ政策が正念場に入ったというのは、問題が金融政策の枠をこえて国としてのトータルな政策の領域に入ったことを示している。


 BRICSもこの間迄は米国の出口政策について他国への配慮がないと文句を言っていたが、自分自身の問題がそれぞれ火急の状態になり、中国・ロシア・インド・ブラジル・南アは皆大忙しである。


 ということで今や世界は各国が自らの生存と発展を賭けた個人プレーを必死に競う場となっている。先月ワシントンで行なわれた年次総会でIMFとか世界銀行という国際金融機関がすっかり影の薄い存在になったのは当然だった。そして、個人プレーが行なわれている競技場を取り巻いているのは大きな財布をかかえた投資家・投機家の群れなのである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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