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第119回 「真面目に中国経済を見よう」

2015年08月03日

株式会社マネーパートナーズホームページ寄稿 2015年8月


 中国経済はきわめて重大な歴史的転期に立っている。1949年の建国後の30年間は毛沢東独裁下で大躍進政策や文化大革命というイデオロギー偏重の全く破滅的な経済政策が強行された。国際的にも朝鮮戦争や対ソ連対立があり、中国経済は停滞の域を脱することはなかった。


 しかし、次の30年は全くの様変りだった。鄧小平はイデオロギーを捨てて欲望を開放した。共産党独裁を続けながら、利益追求の創意を発揮させるという革命的手法である。これは日本・韓国・台湾で成果を挙げた国家資本主義のモデルと共通するものだったが、とくに中国における成功は驚異的だった。30年間で中国はGDPで世界第2位、生産・消費・投資・貿易等多くの分野で世界最大の経済となったのである。


 だが、何処でも同じだが、国家資本主義には賞味期限がある。それを超えると、公的部門の肥大、官僚制度の硬直化、汚職・腐敗という弊害が必ず現われてくる。


 2012年に登場した習近平政権は正にこの宿命的課題を負っていた。そして2013年秋に発表された改革計画は、安定成長指向、国有企業縮少、地方政府刷新、金融自由化、人民元国際化、汚職撲滅等をかかげた正しい方向性を持ったものだった。鄧小平路線からの発展的脱却がスタートしたのである。


 以来、習近平改革は悪戦苦闘しながら進んでいる。党内の路線対立やら、指揮系統の混乱やら、成長鈍化に伴なう市場の混乱やら、汚職摘発による停滞やらという予想通りの、あるいは予想以上の障害が立ちはだかっている。しかし、改革に対する政権の決意は揺いでいないし、それに対する国民の支持も健在だと云えるだろう。一歩前進半歩後退、あるいは川底の石を探って渉るという中国的手法も相変らずだ。周知の通り2017年に行われる政権折返し時点での党幹部異動で改革路線の成否が認証されるわけであり、習政権としてはそれ迄に改革の実績を確実にしておく必要がある。目下のところ事態はほぼ想定の範囲内で推移していると云えるし、政権基盤も安定しているようだ。しかし、中国四千年の歴史を繙けば、一寸先は闇の可能性もある。


 私が強調したいのは、中国という巨大な隣人は目下非常に重要な歴史的変革の過程を歩んでいるということである。その成行きが日本経済に対してもきわめて大きな影響を与えることは云うまでもない。


 ところが、当今の日本メディアの中国経済に関する報道はまことに皮相的であり、かつ謂れなき反中バイアスのかかったものが多いのは心配である。中国経済が7%成長に減速することが世界を不況に陥れる諸悪の根源であるかの如く報じたかと思うと、バブル崩壊で自業自得だと云わんばかりの口調だったりする。日本は中国経済の動向に対して、もっと一貫して真面目な関心を持たなければいけないのではないか。日本には中国経済の傍観者になれるような余裕はないのである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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