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第122回 「決められないFED」

2015年11月02日

株式会社マネーパートナーズホームページ寄稿 2015年11月


 「決められないFED」が国際金融市場の不安要因になっている。リーマンショック後の2009年FEDは他国に先駆けてゼロ金利と国債の大量購入というQE政策を発動した。おかげで米国経済は大きく落込むこともなく、2010年からはゆっくりと着実に回復の道を歩んできた。


 そうなると当然次の課題は何時QE政策を手仕舞うかということになる。国債買入れを止めてFEDのバランスシートを縮小し、FF金利をインフレ率並みに戻すことは、将来の金融変動に備えてFEDとして当然果すべき「正常化」のステップである。


 ところが、もう2年近く市場では何時FEDがFF金利を上げるだろうかという憶測が渦巻いているのに、一向動かないという異常な事態が続いているのである。思うに、これには2つの事情がある。1つは、昨年FEDが国債買入れをストップした時、国際金融市場ではこれが世界的な金融収縮を齎すという思惑から、途上国からの資金流出、通貨下落という混乱が起って、途上国から「米国の身勝手な金融政策」に対する非難が湧き起ったのである。


 米国金融政策の正常化が国際的に一過性の影響を齎すのは当然であるが、そもそも正常化は必要かつ望ましいものなのだし、突然起るわけでもないので、反対すべき話ではない。むしろ、混乱を煽って一儲けをたくらむ投機筋こそ非難さるべきだろう。


 しかし、現実問題としては、FEDが正常化に対する途上国の不満・非難に直面して、慎重になったことは事実だろう。


 第2の事情は、2010年代に入って、たしかに世界経済には予想外の事態が起っていることである。その最たるものは原油を始めとする一次産品価格の暴落と、それと表裏をなす世界的な成長率鈍化、就中、成長のエンジンであった中国経済の成長低下である。


 FEDがその金利政策を決める際に、何処迄米国外の事情を考慮すべきかは議論のあるところだろうが、まあ仕方なかろう。


 ということで、この2つの新しい事情の発生でFEDの姿勢は必要以上に慎重、臆病になってしまった。しかも、悪いことに、事態が曖昧になったために、金利政策についてFED自身が発するメッセージが明解さと確信を失ってしまった。現在市場では、FED内部で見解の差があると思っている者が多いだろう。議長と副議長もニュアンスが違うし、FOMCを構成する委員達が明らさまな異論をメディアに語ったりする。こういうことは昔は無かったと思うし、それが議長の権威と指導力の低下を示すなら、それも問題である。


 結果として、FEDは何時迄経っても金利正常化の決断ができない。慎重さは大事な時もあるが、現状は慎重さが市場での不透明さと不安定を増してしまっているように思う。常識的には、今FEDが「年末迄にFFレートを0.25%にする。その後、3、4年かけて2.0%にする。」と云っても大混乱が起るとは考えられない。むしろ、世界最大の米国経済が正常化の道を歩き出したという好印象が市場を安定化するだろう。曖昧な空気が続いて儲けるのは投機筋だけである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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