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第128回 「暗雲消えないヨーロッパ」

2016年05月02日

株式会社マネーパートナーズホームページ寄稿 2016年5月


 ヨーロッパを覆う暗雲がなかなか消えない。2009年にギリシャを切っ掛けに始まった通貨危機で一時は統一通貨ユーロ制度は崩壊かという様相を呈したが、何とか救済策が合意されて目下の所は一応小康状態になっていた。


 ところが最近またヨーロッパ発の不安材料が出始めている。しかも今回は経済問題だけでなく、政治・社会問題にも飛火をしているので厄介である。


 経済情勢も決して安心できるものではない。ユーロ危機における問題国のうち、イタリアとスペインはそれぞれ新政権の下で徐々に改革が進んでいると思われるが、肝心のギリシャではチプラス政権の緊縮策に対する国民の不満が強く、復活の過程は依然綱渡りだ。


 ECBはデフレ回避のために金融緩和に熱心だが、ドイツのショイブレ蔵相が「低金利は貯蓄を損なう」とドラギ総裁を批判するなど、内部分裂の様相である。6月の国民投票で英国がEU離脱を決めたりすると、EUの統合力に少なからぬ打撃が及ぶのは避けられないだろう。


 問題は経済に止まらない。先日ある国際会議でイタリアのマリオ・モンティ元首相が「ヨーロッパは深刻な瓦解の危機に瀕している」と云った。ヨーロッパの秀れた指導者の一人がこんな直裁な表現を使うのを始めて聞いた。たしかに、最近のヨーロッパは各国で瀕発するテロ、難民流入問題をめぐる混乱、またこういう状況や不景気、高失業、所得格差の拡大等を背景にして、各国で着実に力を増しているナショナリズム、大衆迎合、極右的政治勢力が国内政治情勢を不安定にしている。EUには欧州理事会とか、欧州議会とか、欧州委員会とかさまざまな組織があって域内の意見統合を図る努力をしているわけだが、そもそもEUというのは単一の主権国家を目指すものではなく、独立した主権国家の連邦であるから、余程強力な指導的国家があるとか、各国間に余程強固な統一意思がある場合でないと、こういう種々な政治組織はかえって各国間の相違・対立を増長させることになりかねない。


 最近ヨーロッパで起っているいろいろな出来事はヨーロッパ全体に民主的で安定した市民社会を築くという本来願望された方向ではなく、逆にそういう社会を腐敗させ崩壊させるような方向に働いているのである。


 勿論同じような現象はヨーロッパだけではなく、米国にも日本にも見られる。しかし、不幸にして、歴史的地政的背景から、ヨーロッパで一番顕著に現われているのである。


 というわけで、ヨーロッパの暗雲はまだ消えないだろう。だが勿論、だからと云って日本の空には暗雲がないということではない。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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