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第134回 「 日本の忘れ物」

2016年11月01日

株式会社マネーパートナーズ ホームページ寄稿     2016年 11月

 ある国が世界の中で占める地位というのはその国が持っている総合的な国力で決まるものだろう。総合的国力というのは定義が難しいが、大ざっぱに云えば、経済力、軍事力、外交力、技術力、文化力、イデオロギー力をまとめたものだということだろう。歴史的に考えると、世界の覇者とか指導国家とされた国は、19世紀の大英帝国にしても、20世紀の米国にしても、これらの力のすべてにおいて、他に抜きん出るものがあった。同時に、欧州のいくつかの国のように、全部ではないが特定の力、たとえば文化力とか外交力で非常に優れているために、国際的に大きな存在感を発揮したものもあった。

 日本はどうだろう。日本は戦後の急成長で1980年代にドイツを抜いて世界第二の経済大国になって以来、その経済力で世界に強烈なインパクトを与えた。またそれを支えた技術力とある種の文化力が世界の注目を集めた。現在でも日本はまぎれもなく世界の大国の一つである。

 しかし、最近一寸心配なのは、国際的比較における日本の総合的国力が徐々に低下しているということである。日本経済は労働人口の減少や生産性の停滞で殆んど拡大せず、あっと云う間に米国の四分の一、中国の三分の一に落ち込んでしまった。だがそれ以上に問題なのは技術力、文化力である。最近の日本国内の動きを見ていて案ずるのは、日本人の発想が国内志向で、世界的汎用性やグローバル・スタンダードを目指すものではなくなっていることである。技術力について云えば、依然として匠の技だけを神聖視する風土が残り、ICT(情報通信技術)が技術であるという世界の流れに遅れている。文化の面でも、日本情緒に特化した、狭い異国趣味だけが文化であるように喧伝され、ガラパゴス化が進んでいる。

 こうした困った風潮の結果、日本の学生は海外留学に興味を示さず、サラリーマンは海外勤務を忌避するという世界でも珍しい危険な状況を生んでいるのである。こういう国が世界で存在感を高められる筈がない。現に、世界の大学のランキング、ビジネス環境のランキング、女性の役割のランキング等で日本の順位はジリ貧を続けている。

 毎日のメディアに接していると、日本には大事な懸案が山程あって、政治家も政府も会社も大忙しだということである。しかし、日本という国は本当に大事なことを忘れてしまっているのではないだろうか。日本が世界で一目置かれる存在感を維持したいのであれば、一目置かれる力を蓄えなければならない。日本に残された選択肢は何なのか、それを達成するための戦略はどうあるべきかを具体的に考える作業は今すぐにでも始めなければならない筈である。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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