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第142回 「アメリカがいなくなる!」

2017年07月03日

株式会社マネーパートナーズ   ホームページ寄稿 2017年 7月

 1945年に第二次世界大戦が終った時、戦勝国か戦敗国かを問わず世界中の国が疲弊しているのを余所に、米国だけが唯一無傷で生き延びた経済大国だった。当時世界のGDPの40%を米国一国で占めていた。その米国にとって最大の経済課題は、戦争中に拡大した軍需を中心とする生産設備が何とか稼働率を維持できるよう国内外で需要を創出することと、世界経済が復興して政治的な安定が高まるよう、各国の生産力を復活させ、その製品が売れるように国際的な貿易体制を整備することだった。これは第一次世界大戦が終った時、敗戦国ドイツに苛酷な賠償を強い、そのためにドイツ国民が困窮した結果、ヒトラーのナチズムを抬頭させてしまった失敗への反省から得た教訓だった。

 米国は、国内では金融緩和政策をとると共に住宅金融や消費者金融制度を整備して家計が消費をふやすようにした。国際的には、マーシャル・プランのような政府援助をはじめ米国主導で設立された国際通貨基金や世界銀行が短期・長期の資金を供給して生産設備やインフラの整備を促進した。GATT(のちにWTO)の主導で多国間の貿易自由化交渉が活溌に行なわれ、通貨面ではいわゆるブレトン・ウッズ体制の下で割高なドルを中心に安定した相場体制が成立・維持された。

 要するに、第二次大戦後の世界経済はすぐれて米国主導の下で開放的で成長指向の環境が整備され、日本を始めとする各国はそれをフルに享受・活用して、人類史上でもまれに見る発展を遂げたのである。

 このような政策が実行されたのはそもそも米国が戦後の自国経済の繁栄を確保するという自国利益追求の結果であるのは間違いない。しかし、同時に各国がその恩恵に浴したことも確かだし、皮肉なことに、このような政策が続いた結果、米国の赤字が累積し、維持不能な負担になってしまったのも事実である。

 トランプ政権の経済政策、とくに貿易政策に対しては国際的に批判が多い。TPP脱退、NAFTA再交渉、報復関税、等々。そしてその批判の中心は、今迄世界が営々と築いてきた多国間の自由貿易の枠組みをトランプ政権が崩してしまうという点にある。確かにその通りではあるが、トランプ政権に云わせれば、「そもそも戦後多角的自由貿易体制を構造したのは米国であり、米国はそれが経年と共にマイナスの面が強くなったので修正しようとしているだけだ」ということなのだろう。「アメリカ第一主義が悪いと云うが、自国第一主義でない国が何処かにあるのか?」という問いである。

 要するに、世界は米国主導の時代に馴れ過ぎてしまったのだ。ところが今や米国自身がそれをやめると云い出している。そうなると、選択肢は三つになるのではないか。

(一)米国に思い直してもらうよう頼んで、手助けする。
(二)誰か他の国に代ってもらう。
(三)主導国がいない世界に移る。

 どれも容易ではない。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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