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第149回 「不都合な真実」

2018年02月01日

株式会社マネーパートナーズ   ホームページ寄稿 2018年 2月

  2018年の日本の実像は一体何なんだろう。一方では政府の指導者とそれを支持する多くの経済界、言論界の人々が一生懸命に明るい絵を画いている。しかし他方では多くの一般市民や一部の学者が楽観論に違和感を覚えながらも声高に水を差すのを躊躇っている。一体どちらが正しいのだろう。

 楽観論の人達はいろいろ良い数字を持っている。「日本経済は戦後最長の景気回復を続けている」。「潜存成長率は0.8%位だが、去年は1.5%を超えた」、「失業率は戦後最低だ」、「企業収益も最高で、株価も25年ぶりの高値だ」、「賃金も上がっている」、「日本人の生活の質は世界一高い」、「日本は世界一安全で、美しく、食物は美味しく、もてなしが良いので、世界中から観光客がやってくる」等々。毎日のテレビに外国人が次々と出演して「クール・ジャパン!」ともてはやす。国を挙げての自画自賛ぶりである。

 しかし、慎重論も決して感情論ではない。「日本経済が回復しているのは事実だが、世界全体の回復と比べれば立ち遅れている。日本の成長率は先進国中最低であるばかりか、ロシアよりもブラジルよりも低い」、「その結果、日本経済の世界における地位は着実に低下している。2000年代に日本を抜いた中国はすでに3倍に近い。10年後には5倍になる」、「経済規模だけでなく、国際競争力の劣化が著しい」、「技術大国と云われた日本だが、今ではIT、宇宙、医療、工学等殆どの分野で米中欧に抜かれた。特許出願数や論文数、技術者の数でも国際順位は低下の一途である。ノーベル賞受賞者はいなくなる」、「大学の国際順位も下る一方」、「株価は上がったが、リーマン危機以前のピークに戻っていないのは日本だけ」、「企業の新陳代謝も少なく、IT分野での世界的企業は皆無」、「人口の高齢比と減少は世界一なのに、真剣な対策がとられていない」、「社会保障制度の破綻が眼に見えているのに、財政改革が進んでいない」等々。さらに外交問題についても、「米国との協調体制は強固なようだが、肝心の隣国である中国・韓国との関係が一向に改善しないのは不安だ」という声もある。

 日本の現状が国際的に見て心地良いことが多いのは間違いないだろう。日本人が目下のところ、平均的に云って世界の中でも質の高い生活を享受していることは確かである。問題は、にも拘らず、その心地良い表面の底に、将来に向けた大きく暗い「不都合な真実」が隠されていることであり、指導者達やメディアはそれに気付いていないのか、あるいは気付いているのにあえてそれを避けていることである。

 国が困難に遭遇した時、それに対処する政策を示すことなく、困難の恐怖だけを宣伝することは正しい選択ではない。しかし対処する術が判らぬから困難を直視しないのは最悪の選択だろう。日本が今必要としているのは不都合な真実を正確に認識し、それにどう立ち向かったら良いかについて率直で活発な国民的議論を喚起することである。皆が忖度ばかりして本音を云わなくなるのは確実な自殺行為である。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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