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第157回「リーマンの次に来るもの」

2018年10月01日

株式会社マネーパートナーズ   ホームページ寄稿 2018年 10月

 リーマン・ショック十周年ということでメディアが賑わっている。主な関心事項は二つあるように見える。一つは、あれは本当に想定外の出来事だったんだろうか、ということであり、もう一つは、ああいうショックはまた起るだろうかということである。

 この問いに対する「識者」の答えは率直に云ってまことに当たり差わりのないものが多い。「あとから考えれば必然的な情況ではあったが、あの時点では、金融界も監督当局も、あれ程厳しい危機に発展するとは想定しなかった。」また、「危機後さまざまな対策がとられ、抵抗力は増しているが、現状のような流動性過剰が続けば、また起ってもおかしくない。」ということである。

 こういう答は間違いではないのだが全く面白くない。いろいろ議論はあるが、本当のところ何故ああいうことが起ったのか、そして実際に起ったことは何だったのかということがいまいちはっきりしないからである。

 あえて挑発的なことを言ってみよう。リーマン・ショックの本質は要するに資産バブルの破裂であって特に異質なものではなかった。世界では何世紀も前からたとえば英国の南海泡沫バブルとかオランダのチューリップ・バブルとかさまざまな形の資産バブルとその崩壊を経験してきた。そして何時もその背景にあったのは特定の資産の需給関係についての見通しが、当事者達の貪欲によって歪められたという事実である。1980年代の日本と類似しているのだが、21世紀に入ってからの米国でも金融緩和と景気回復によって住宅需要が拡大し続けるという見解が充満した。間違った予測に基づく過大な期待は必ず矯正される。それがバブルの破裂である。

 しかし、昔から何度も繰返されていた資産バブル崩壊であったリーマン・ショックが何故あれ程の世界的危機になってしまったのだろうか?監督当局の不作為によって傷口が拡がったという面もあったが、基本的にはそれは20世紀末以来米国を中心に急速に進展した「金融のIT技術化」と「グローバリゼーション」の流れの故だった。そしてその結果生じたのは、金融における対面性の喪失、リスク感覚の麻痺、危機伝播力の増大であった。かつては地味な公共財であった金融が世界経済に君臨する巨大な技術・装置産業になったのである。世界で何時でも何処ででも起っていた資産バブル崩壊であるリーマン・ショックがあのような大事件になったのは、演じられたドラマは同じでも、演じられた劇場と観客が全く変わっていたということなのである。

 もう一つ、リーマン・ショックは「世界金融危機」と呼ばれる。たしかに、火元であった米国で先ず起こったのは大規模金融機関の破綻であり、金融システム崩壊の危機だった。しかし、米国以外の経済、欧州、日本、中国などで起ったことは金融危機とは云い切れない状態だった。欧州ではそれはEU危機との複合であったし、日本では産業構造危機であったのである。欧州では1999年に統一通貨ユーロが誕生した。歴史的大偉業ではあったが、税を含む財政政策、金融監督を統一せずに、金利はドイツ並みの低金利に収斂し、為替リスクが無くなったんだから、当然のことながらスペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ等の弱少南欧国に域内外から大量の投機資金が流入した。ユーロ・バブルが起ったのである。このバブルが2009年に破裂した時、EUには危機対応策ができていなかった。ギリシャを中心とする混乱でユーロシステムそのものが崩壊の危機に瀕したのである。この傷痕はまだ癒されていない。

 そもそもリーマン・ショックが世界経済に与えた具体的な打撃は二つの形をとっていた。一つは信用の消滅である。リスクがないと言われていたさまざまな不動産担保証券が債務不履行に陥り、世界には金を貸そうという者がいなくなった。正に金融危機である。しかし、日本は幸か不幸か1990年代のバブルの崩壊で厖大な不良債権が発生し、銀行も家計もバランス・シートを修復するので精一杯だった。邦銀は資本増強に熱心で、金融工学型の新商品には興味がなかったから、リーマン・ショックで信用収縮が起ってもそれ程深刻な打撃を受けなかった。

 しかし、リーマン・ショックはもう一つの打撃を世界経済に与えた。需要の激減である。カネが廻らなくなり、景気の見通しが急速に悪化したものだからモノへの需要が無くなってしまった。2009年の世界の全輸入は前年から20%近く急落した。

 金融の傷を何とか逃れた日本経済はこの需要激減の打撃を諸に受けることになってしまった。第二次世界大戦後日本経済は輸出主導で成長を遂げて来た。しかし1980年代の貿易摩擦で輸出依存への反省が高まり内需への転換の努力が行なわれた。その結果、一時は20%近かった輸出の対GDP比も20世紀末には10%を切る迄低下していたのである。

 しかしバブル崩壊後の長期停滞に陥ると再び輸出への依存が高まり、リーマン・ショック直前の2007年には輸出の対GDP比は再び15%以上に戻ってしまっていた。しかもその輸出の主体は相変わらず製造工業製品であるから、製品の高度化に伴ってサプライ・チェーンが国内外で複雑、広汎に拡大していた。世界的なモノへの需要の急減によってこういう産業構造が一番被害を受け易いのは自明であろう。2009年の日本の名目GDPは対前年比で6.0%収縮した。米国は1.8%、ドイツは3.9%だった。以後日本のGDP成長率は主要国中最低であり、世界経済に占める日本の地位は低落を続けている。

 こう見て来ると、リーマン・ショック世界金融危機と一言で云ってもそれが残した傷跡と課題は経済毎に非常に違うことが明らかだろう。危機再来の可能性についての議論も専ら米国の視野で語られており、そのためそれが日本経済に対し持つ意味合いについての議論はいささかピントの外れたものになっていることが多い。日本に対してリーマン・ショックが残した一番重要な課題は、廻りの世界がこのように急速に大幅に変化している時、日本の企業はどう変るべきかということではないか。率直に云って、世界は変っているのに日本は変っていない。日本の企業は、金融業でも製造業でも、古い価値観の土俵の上で勝負することに熱心だが、価値観を変えねばならぬのではないかという発想に向き合おうとしない。製造業で云えば、人間の技術である匠を磨き上げることで製品の質を高めることであった。それには成功したが、IT化を軽視したために、主要な分野における指導的地位を米中の企業に奪われてしまった。金融産業について云えば、公共財としての使命を重視し、信頼を基礎にして堅実な経営を目指すことで、リーマン・ショックのような事態に対する耐性は高まった。しかし、収益性は一向に向上せず、従って時価総額では米中主要行に大きく差をつけられたままである。

 要すれば、日本の企業、あるいは日本という国全体がガラパゴス化しているのである。日本の企業は、競争に負けたというより、競争に参加していない。問題は、世界の変化は決して終ったわけではなく、まだまだ続くということだ。競争の土俵はこれからも変り続けるだろう。日本企業にとっての課題は、これから自分がどういう土俵で斗うのかを正確に見据えることに他ならない。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。

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