株式会社マネーパートナーズ ホームページ寄稿 二〇二〇年 七月
トランプ大統領が次から次へと襲いかかる難問に悪戦苦闘している。土壇場の逆転劇で再選を果たすか、多くの咎の報いを遂に受けるのか、あと四ヶ月の勝負になった。
そもそもトランプ大統領が一部の内外のメディアに非常に評判が悪かったのは、世界の指導国家としての責任感を放棄し、国際協調の重要性を理解しなかったという批判の故であった。確かに、トランプ大統領の主張には第二次世界大戦後の世界秩序に対する挑戦とも云うべき要素があった。
しかし、他方彼の減税や規制緩和の政策の下で米国経済が好況を続け、それが世界経済を支えたことも事実であった。そのため、もし今年の初めの状況が続けば、トランプ再選の可能性は十分あるというのが直近の見立てだったのである。
ところが、事態は急転した。中国で発生したコロナウイルスは忽ち全世界に拡散し、米国経済も戦後最悪の惨状となった。頼みの綱の経済の破綻に加えて、政治・社会情勢も暗転した。白人警官による黒人容疑者殺害事件をきっかけに、人種差別反対運動が爆発的に発生した。ホワイトハウス前での警官とデモ隊の衝突の映像は米国の社会秩序が基本的に劣化しているかのような印象を与えるものだった。
気まぐれなトランプ大統領の信認が珍しく厚いと思われていたジョン・ボルトン補佐官が一転して寵愛を失ったと思ったら、何と赤裸々な暴露本を出版し、大統領が如何に自分本位で、信用のおけない人物かを暴き立てている。
外交面の形勢も良くない。対中・露・北朝鮮・イラン・EUの政策に関しては、案ずる声も大きかったが、同時に今迄の大統領ができなかった隘路打開の期待がゼロでなかったことも事実である。しかし現状はこういう期待を高めるようには動いていない。とくにEUとの同盟関係が悪化していることに対する懸念は強い。
トランプ大統領はこういう難問に囲まれて一体どうしようとしているのだろうか。彼が端倪すべからざる人物であるのは確かだが、同時に、自らの直感で得た判断に強く拘る面もある。
コロナが最大の難問であることは云う迄もない。経済再開と雇用の回復が正比例することは明白である。問題は経済再開と第二波のリスクをどうバランスさせるかだろう。トランプ大統領の頭の中は、第一位が経済再開、第二位は中国の責任追及、第三位はワクチンの開発だと思う。理想的展開としては、四~六月期で景気が底を打ち、七~九月期で回復の兆しが現れ、十~十二月期に実績が示されるということだろう。これなら、再選の可能性は高い。
人種差別反対問題についてのトランプ大統領の立場は、この問題を徹底して「法と秩序」の問題として対応することである。彼は米国に人種差別問題が厳然と存在することは良く知っているだろう。ピルグリム・ファーザー達がプリマスに着いたのも、オランダの移民がアフリカから初めて黒人奴隷をバージニアに運び込んだのも同じ一六一九年だったということに象徴されている通り、黒人人種差別問題は米国が何時迄も背負って行かなければならない原罪なのであろう。南北戦争もルーサー・キングも公民権法もオバマ黒人大統領も完全な解決はできなかった。だからトランプ大統領は不毛な人種差別反対ではなく、多くの国民が関心を持つ「法と秩序」の問題として対応したほうが選挙戦術としても有利だと判断したのだろう。
外交関係も厄介になってきた。ディールが好きで、得意でもあるトランプ大統領が腕をふるうためには、お互いがそれなりに駆引きをする余裕を持っている必要がある。しかし、対中関係をとってみても明らかなように、先端技術や安全保障をめぐる米中の覇権争いはかなり切羽詰まった状態になっている。しかも、対中国については国を挙げて警戒論一色だから、強硬路線の強化しか方向はないのである。
ということで、トランプ大統領をめぐる環境は厳しい。しかし、考えてみれば、それは彼が何か致命的な失敗をおかしたからではない。すべては、コロナによる雇用の減少が何時回復するかにかかっているということだろう。