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第187回 「G2の時代を生きる」

2021年04月01日

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二〇二一年 四月   行天 豊雄

 米中関係が険悪になったという。確かに先般アンカレッジで行われた高官会合でのやり取りなどを見ると、英語のアクリモニアスという言葉が正にぴったりするような厳しさではある。同時に、米中が対抗する場面の雰囲気が今迄とは明らかに変わったことに気づく。
 第一に、中国が米国に向かって挑発的に攻勢をかけ、米国がそれに対応するという攻守の構図が出てきたことである。従来は、問題はすべて中国側にあり、米国がそれを批判し、訓戒するという構図だったが、そうばかりではなくなったということである。
 第二に、従来両国間の懸案は貿易を中心にした経済問題と軍事問題であったが、最近では人権問題とか民主主義のモデルであるとかソフトの分野に属する話を中国側が持ち出すようになった。
 第三に、最近は両国ともに両国間の懸案がグローバルな問題であることを良く認識しており、したがって観客が全世界にいることを強く意識している。
 米中関係がこのように変質してきていることは、両国による覇権争いという二十一世紀の歴史的イベントが新しい段階に入ろうとしていることを示すように思える。そこで考えなければならないのは、そもそも覇権争いとは何なのかということである。
 覇権国家というのは、いろいろな意味で世界最強の指導者である。基準を作り、指針を示し、指導者としての責任と負担を引き受けるということだろう。
 覇権国家が必要とする力は大ざっぱに云って六つあると思う。経済力(金融・通貨を含む)、軍事力、技術力、外交力、文化力そして指導理念である。このすべての分野で、ある国の傑出した立場を世界が認知すれば、その国は覇権国家として歴史に生きるのである。古くはローマ帝国、新しくは十九世紀の大英帝国、二十世紀後半の米国がそうだった。
 この六つの分野において現在の米中がどう比較されるかを考えてみよう。
 まず軍事力において、現在米国が量質ともに断突の覇者であることは明白である。しかし二つの留保が必要である。一つは、中国が米国に追い付こうとしやかりきに努力を続けており、十年二十年後にその結果がどうなるかは判らないことであり、もう一つは、米国の軍事力は全世界に対応しなければならないのに対して、中国は少なくとも当面の間はアジア太平洋に専念できることである。
 経済も不透明だ。現在名目GDPは米国が二十一.四兆ドル、中国が十四.四兆ドル、一人当たりでは米国が六五.二〇〇ドル、中国が一〇.三〇〇ドルである。貿易総額は米国が四.一兆ドル、中国が四.六兆ドルで、個別項目で中国が世界最大の生産国、消費国であるものは多い。年七%の成長が十年続けばGDPは二倍になるから中国が経済規模で米国を凌駕するのは可能性としてはありうるが、人口動態や生産性を考えると、現実味はない。中国が世界最大の貿易国であるにもかかわらず、人民元の国際通貨としての役割はまだ極めて限られている。中国は周辺地域との経常取引での人民元の利用を拡大し、一帯一路や対外援助を通じての人民元の国際投資通貨としての役割の拡大を図っている。その努力が徐々に成果を上げているのは事実である。しかし、結局のところ、人民元がドルに代わって世界の基軸通貨になるかは、利用者の選好、ウォール・ストリートに匹敵する人民元の国際センターの生育、発行国中国の世界的地位によって決まるのであり、掛け声だけではどうにもならない。その事情は日本円についても全く同じである。
 デジタル通貨の将来はまだ判らない。それが中国のような新興大国に何等かのチャンスを斉らすのは間違いないだろうが、誰がどうそのチャンスをものにするかはまだ未定である。
 技術の分野での中国の躍進は驚嘆に値するものであった。スタートの時点では「真似るか盗むか」だった中国の技術はあっという間にその段階を卒業し、押しも押されぬ技術大国になった。技術の分野で示された中国の底力を忘れてはいけない。
 文化の分野での米中関係は相対的には一番居心地が良かった。伝統的に米国の知識層は中国文明に敬意を持っている。四百万人を超える在米華僑や上流階級の子弟が多い中国人留学生の存在は十九世紀以降の両国間の文化的つながりを特別なものにしてきた。
 しかし最近はアジア系アメリカ人への迫害や、中国人留学生の締め出しのような暗雲がただよっている。米国は在米中国人の存在が対中関係における米国の貴重な資産であることを十分に理解しなければならない。
 外交分野においても中国は「友達作り」に躍起である。特にアフリカ、中近東、東欧、東アジア、中南米、南太平洋等の開発途上国や米国との距離を保っている国に対して、ワクチンを含む必要物資の供給、インフラ投資、各種援助等々の脅しと賺しで外交関係の強化を図っている。経済協力の分野と同様、この努力は徐々に成果を収めている。しかし率直に云ってこれ迄の成功は中国外交の勝利というより、米国外交の失敗、つまり米国側の敵失によるものでもあった。
 最後の分野である指導理念は米中両国にとって最も重要であり、かつ困難なものである。個人でも国家でも、指導者たるものは、それによって他者が彼を信頼し敬迎するような理念、エトスをもっていなければならない。パックス・ブリタニカにおけるそれは「選ばれた者の責任(ノブリス・オブリジェ)」であった。パックス・アメリカーナにおけるそれは「自由と個人の尊厳」であった。
 米国はこれからもその世界の指導国としてのエトスを体現し続けられるのだろうか。
 二十一世紀に入ってからの米国の社会・政治・経済における劣化と混乱は眼を覆わしめるものがある。正義を求める声には聴く耳があり、萬人に機会が与えられ、努力が報いられ、自由が圧殺されることはなかった米国は何処へ行ってしまったのか。米国の友は悲しみ、敵は喜んでいる。
 しかし、中国は自らが覇権国家になったらどういう理念で世界を指導しようと云うのだろうか。アンカレッジの会合で中国側は「米国型の民主主義のモデルは米国の国民にも支持されていない」と皮肉ったらしい。しかし、それでは、中国が自信をもって世界に提示できる中国型の民主主義というのは何なのだろう。実は誰も聞いたことがないのである。中国が自由とか個人の人権を尊重していないのは事実である。しかし、現時点で世論調査をすれば、現状に満足している有権者の比率が非常に高いことも事実であろう。実は中国ではすでにビッグ・データとAIの活用でジョージ・オーウェル型のマインド・コントロールが始まっているのである。
 こうしてさまざまな分野での米中関係の今後を考えると、予見しうる将来に米中いずれかが競争に完勝して覇権を確立することは有り得ない。両国は押しつ押されつの競合を繰り返しながら、G2の時代が続くのである。緊張の温度は上がったり下がったりするだろう。AIによるマインド・コントロールが何処まで進むかは、結局人間がどういう価値観を持ってデータを処理するかにかかってくる。歴史は偶然の集積で動いているのは事実だが、偶然も因果の網の目から生まれるのだから、われわれは自分達の将来に対して無責任ではいられない。われわれもバイデンや習近平と同じように「考えて語り合う」必要があるのである。

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プロフィール

  • 著者近影 行天 豊雄(ぎょうてんとよお)
    1931年生まれ。55年東京大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。プリンストン大学留学。国際通貨基金、アジア開発銀行に出向、国際金融局長、財務官などを歴任。89年退官後、ハーバード大学、プリンストン大学の客員教授を経て、92年から96年まで東京銀行会長。95年12月に国際通貨研究所初代理事長となる。2016年10月より同研究所の名誉顧問に就任。98年には小渕首相の助言役として内閣特別顧問を努めた。著書には「富の興亡-円とドルの歴史」(東洋経済新報社)など。


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