昨日までの2日間で100.55円から一気に105円直前まで上昇したドルの強さは本物か、考えてみたい。さすがに今日(7/13)はスピード調整のように反落し、一時103.93円までドルは売られた。しかしすぐ104円台に戻したことは極めて重要なポイントだ。104円台はBrexit前にでもみ合っていた水準。ここから105円台へ上抜けるか、また102円台に逆戻りするか、ドル円の方向性についてのセンチメントが変わったかどうかを判断する重要な水準になっているからだ。
今回のドル反騰は、これまでの不安=というよりしばらく回復は難しいとあきらめに近い心理=から、世界情勢は好転し、ドル円も底を打ったのではないかとの気持ちに変わったことで起こったと考えている。それはまず先週末の米雇用統計から始まった。結果から為替面では反応が薄かったが、NY市場で市場最高値を更新するなど、世界的に株式市場で好感されたことは大きい。
ヘッドライン(28万7千人という予想をはるかに超える雇用者数)は、本来は米景気回復期待からドル高になっていい数字だが、これは材料視されず、逆にマイナス要因(前月の下方改定、賃金の伸びが前月比では縮小、失業率の上昇)から利上げ後退論が高まったことが、株式相場に追い風となった。連れて日本株も株高になりドル円をサポートした。
そして同時に参議院議員選挙で安倍政権が信任され、大型財政出動の期待が高まったことから株式相場の大幅上昇を呼び、合わせて、日銀の追加緩和の期待も高まった。折しも元祖ヘリコプターマネーのバーナンキ前FRB議長の安倍、黒田会談も憶測を呼んだ。「日銀にはまだできることがある」との発言は、間違いなく追加緩和の下地つくり、と受け取られる。
次いで、英国首相が予定より1か月半も前倒しで決定されたこともリスクオンへの転換を後押しした。今後のEU離脱交渉には、かなりの紆余曲折があるだろうが、英国のリーダーがはっきりしたことで、これまでの不透明要因が薄らぎ、ポンド高(円安)を演出した。
市場全体が、リスクオフによりキャッシュ(あるいは売り)ポジションが高まっていたところに、不安解消となる材料が続いたため、投資家は急いで買い戻しに走り、ドル円は大きく上昇した。個人的には、このセンチメントのシフトはこれまでになく力強いものと感じる。
テクニカルでみても市場心理の変化が読める。昨年6月5日にアベノミクスのドル円最高値(125.86円)を付けて以来、初めて2日続けて2円以上ドル高になった。1日で2円以上ドルが上昇した日は今年に入って3回あった。日銀がマイナス金利導入を発表した1月29日(118.24円から121.69円)、それに3月1日(112.15円から114.18円)、と4月22日(109.25円から111.81円)である。しかしどれも翌日にはドルは下落した。
しかし今回は、2日続けて2円以上のドル高となった。それに短期の移動平均線(21日線103.09円)が、6月1日以来初めて昨日のNY終値で上抜けした。ただ、まだトレンドは下方向であり、中期線(89日移動平均)も108.15円とかなりのドル高水準であり、完全にドル高方向にシフトしているわけではない。しかしこれまでのリスクオフ一色の市場心理からは少しづつ抜け出しているような気配である。
今後は、各国のファンダメンタル指標や、米国企業の4-6月期業績発表を横目に、ドル円の下値固めが進んでいくものと予想している。今後1週間のドル円の相場レンジは103.50円-105.50円と予想。ユーロは、イタリアなどの南欧金融機関の経営不安を受けて軟調に推移する可能性があり、対ドルでは、1.0900-1.1150、そして対円では113円-116円と予想している。
(2016/7/13、小池正一郎)