「第3次安倍政権の最重要課題は経済政策の推進、デフレからの脱却」と、安倍総理は改造内閣の組閣後の記者会見で、こう宣言した。東京都知事も小池百合子氏に決まり、これで日本経済の成長への再出発となる舞台は整った。これからは先行き不透明の段階から、実行の本気度が問われる段階に移る。すなわち相場の方向を決定づける要因が、より政治色が強くなると考えられる。
最近のドル円相場は、この本気度をめぐる解釈で乱高下している。為替をはじめ国際金融市場は、何よりも不安定、不透明を嫌う。その危うい状態が浮き出るたびに、リスク商品は売られ、安全資産への乗り換えが活発化するリスクオフ相場となる。そして不透明感が薄まると、その巻き戻しがおこる。
今年は、この傾向が今まで以上に極端になっているようだ。2016年の円の最安値は、日銀のマイナス金利導入時に付けた1月29日の121.69円。この日以降、ドルは続落し、ブレグジットが決定した6月24日には、ついに2013年11月以来の100円割れを記録した。
この間ドル円相場を動かした主な要因は、米日欧中央銀行の金融政策や、米財務長官ドル高けん制発言、英国のEU離脱などの政治的要因であった。その流れはドル下落トレンドとして続いている。米国ルー長官流にいえば、「今は、ドル高の調整局面であり、ドル安ではない。したがってドル下落は秩序だっている」との発言になる。
ただ、事実でいえば、2016年の下落幅はいかにも異常である。今年は7か月間で、ドル円取引レンジ幅は22.74円(変動率は18.7%)であり、変動幅としては、リーマンショックの起こった2008年(25.12円)以来、8年ぶりの大きさである。そしてその下落も継続的にじりじりとドルが売られていくのでなく、短期間に6円以上大きく売られ、その間は横ばいだったり、売られた分を徐々に回復していくような相場展開であった(これを筆者は「エスカレーターアップ・エレベーターダウン」と呼んでいる)。
この暴落ぶりは、先週取り上げたアルゴリズム取引以外の何物でもない。その背景は、変動を左右する言葉がメディアに集中的に流れたことであり、「うわさで買って、事実で売る」ことが実行された結果である。それも市場の薄商いの時間に大量に実行されたことで、プライスが大きく飛んだことに結び付いた。
さて、ドル円は100円割れ定着に向かうのか?
筆者はそうはならないと予想している。その大きな理由として筆者が考えているのは、米国景気の改善進行と、日本の金融緩和の継続である。ただその時期は、相場秋の陣が始まる9月以降とみている。
ただ、これからは世界的に夏休みモードであり、薄商いになる時期なので、材料が出るたびにアルゴの取引が相場を大きく振らすことになる。そのため断続的に100円割れが出て、一時的には98円割れ程度までのドル下落局面が出てこよう。ただ100円割れが長続きするとは思っていない。
今週末の米雇用統計では、非農業部門雇用者数(NFP)の予想は17~18万人の増加、前月分(28.7万人)の下方修正は予想されるが、2か月合わせて月平均20万人を超えていれば、市場に安心感を与えることになり、ドルは底堅さを取り戻すと予想している。
今後1週間のドル円の相場レンジは99.50円-102.50円と予想。ユーロはストレステストを終えたことから買い安心感がでて、対ドルでは1.1100-1.1350、対円では111.50-116.00円と予想する。
(2016/8/3、小池正一郎)