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第210回 ~ 腹をくくったイエレン議長 ~

2016年09月01日

 天照大神が、いよいよ岩戸を開けて地表に姿をあらわしたような思いだ。天照大神とは誰あろう。FRBイエレン議長である。

 「Brexitから2ヵ月経ち、世界の懸案も沈静化してきた。失業率も完全雇用に近い水準まで低下、米景気は成長軌道に乗ってきた。あとは金融政策の正常化をどのように実行するかだ」、という気持ちになったのだろう。

 イエレン議長は、昨年12月に0.25%の利上げを行った後、幾度か利上げの機会があっても、株価暴落やBrexitなどリスクオフの事態が発生するたびに、振り上げた旗を引き下げてしまった。この様子は、まるで外の様子を気にしながら、のぞき見しながら天岩戸に隠れてしまう天照大神によく似ている。それが天照大神と言われる所以である。

 天照大神を岩戸から引っ張り出すためには、岩の外で踊ったり、楽し気な声をあげて、岩戸を少し開けのぞき見するような手を打たなければならない。そして姿を表した途端に引っ張り出す力持ちも必要だ。その役目を果たしたのが、フィッシャー副議長や、ダドリーNY連銀総裁をはじめとする地方連銀総裁たちだったと考えた。

 筆者は、これでFRBの実質的キーパースンがフィッシャー副議長であることが明らかになったと読んだ。中央銀行マンとして、金融政策の弾力性、自由度を持つためには、金利政策の発動が重要な手段となる。これは金融政策の正常化プロセスの一端となる。伝統的な金融政策を重視するフィッシャー議長は、そのためには、必要になっときに利下げにより景気刺激をできるようにしておかなければならないと、金利引き上げのタイミングを模索していた。

 それが、ジャクソンホールの講演であった。しかしイエレン議長の演説に利上げの確率を高める言葉を入れるためにはそのお膳立てが必要だった。フィッシャー氏は、用意周到に準備していたに違いない。まさに、隠れている議長を引っ張り出したのがフィッシャー副議長である。そして利上げに備えた地ならしが始まった。それが副議長や地方連銀総裁たちの過剰ともいえる利上げ正当化発言であった。

 しかし、どの応援団も、リスクヘッジをしている。利上げのタイミングは近い、と言いながら、「いつか」と言うことについては、だれも明確に示唆していない。それゆえにCMEのフェドウオッチでもわかるように、市場では9月あるいは11月の利上げを織り込んでいない。また同時にフィッシャー副議長は「データ次第」と煙幕を張っている。この言葉だけを取れば、今までと何ら進歩ない、何も新しいことを言っていないことになる。

 そうはいっても、データとは雇用統計を指している。やはり9月2日の雇用統計次第では、確実に利上げに舵を切るだろう。好感できる数字が出れば、ドル円は一気に105円に近づく可能性もある。

 さて、金曜日に発表になる雇用統計のうち最も大事な数字は、非農業部門雇用者数である。金利引き上げに正当性を得る一つのめどは、昨年利上げ時の数字との比較である。当時の直前3か月平均は28.2万人。今回も同じ考えとすれば、8月は29.9万人の増加が必要となる。しかし、平均20万人になればよいというのであれば、5.3万人でよい(実績は、7月25.5万人、6月29.2万人)。しかし実数が一桁では元の木阿弥になってしまう。

 今の市場予想は18万人。前2か月に改定がなければ、今年の3か月平均は24.2万人になる。この数字であれば、賃金や労働時間、製造業雇用者数の増加など改善されていれば、利上げへの障害はなくなるだろう。

 もし、仮に最悪一けた台以下となれば、ドル円は再度100円割れを狙う可能性がある。しかしその場合でも筆者は、100円は岩盤と思っており、100円割れが定着することはないと考えている。そこで、今後1週間のドル円の相場レンジは101.80-105.00円と予想。ユーロは、対ドルでは1.0950-1.1200、対円では113.80-117.00円と予想している。
(2016/8/31、小池正一郎)

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プロフィール

  • 著者近影 小池 正一郎(こいけしょういちろう)
    グローバルマーケット・アドバイザー。1969年日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行後、資本市場部長、長銀証券常務などを歴任。1998年よりUBS銀行外国為替本部在日代表、シティバンク・プライベートバンクを経て、2006年より2015年6月までプリンシパリス.日本代表(国際金融政治情報コンサルティング会社、本部英国ロンドン)。外国為替コンサルタント、ファイナンシャル・プランナー(CFP(r)認定者)。ブログ執筆中(牛誰人のブログ・小池正一郎の世界経済大観)。新潟県出身(関川村ふるさと大使)。

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