確かに、そのこと自体は喜ばしいことであるが、それ以上にエコノミストが注目したことは、NFPの絶対数152,536千人である。これまでの最高値は2020年2月の152,504千人、わずか32千人であるがこれまでの最高値を上回ったことになる。2020年4月には新型コロナの爆発的な感染で、130,514千人と最高値より約2,200万人減少した。その後少しづつ積み上げ、2年3カ月かかってようやく回復した。この間、前月比マイナスになったのは2020年12月のみ、他の月はコンスタントに増加、アメリカ経済の底力を感じるパフォーマンスを示した。
加えて失業率の低下も予想外であった。先月まで4カ月連続して3.6%が続いていたが、これで完全失業率だとして考えられて、今月も同レートで予想されていた、しかし結果は、前月比0.1%低下の3.5%、まさに雇用の完全復活とも言える。ただ、労働参加率が上がってこないことが課題として受け止められている。労働参加率(Participation Rate)とは、15歳から64歳までの生産年齢人口に占める労働力人口(就業者+失業者)の割合として定義づけられており、毎月雇用統計の関連指標として発表されるもので、労働供給の指標として活用されている。
パンデミック前(2020年2月)は63.4%であった。2か月後の4月には、60.2%に低下、その後徐々に回復2022年6月は62.2%であったが、今月の統計では再び低下62.1%となった。雇用は増加しているが、パンデミック前に届かないということは、働かない人がたくさん存在している証と受け取られている。言葉を変えていえば、働かなくても生活できる状態であり、かつ賃金などの条件の良い職場を探す余裕があるともいえる。その状態は、JOLT(求人労働移動調査)でも明らかになっており、また賃金の伸びでも確認できる。
賃金については雇用統計の中でも、平均時給(Average Hourly Earnings)の上昇でも示されているが、アトランタ連銀の賃金追跡調査(Wage Tracker)が参考になる。6月に急上昇、3か月移動平均で年率6.7%の上昇となり1983年1月の統計開始以来最大となった、また、単月の上昇率も6月は7.4%と前月から0.9%の上昇で、FRBがインフレ懸念を強めている一つの大きな要因ともなっている。
今月の雇用統計の結果を受けて、市場には、9月FOMCでの利上げ幅は、やはり0.75%で継続されるとの思惑が出て、特に短期金利が上昇した。逆イールドも、6カ月物からに拡大し、2年―10年は、0.46%と広がった。パウエル議長をはじめとしてFOMCメンバーはこれから難しいかじ取りを求められることになる。
そこで、その一環として大きく注目されるのが、今晩発表になる米国の消費者物価(CPI)である。市場予想は、総合が、前月比+0.2%、年率+8.7%(前月実績はそれぞれ+1.3%、+9.1%)であり、コアは、前月比+0.5%、年率+6.1%(前月実績は、それぞれ+0.7%、+5.9%)となっている。実際に発表になる数字と予想との違いに注目して発表を待ちたい。
さて、今後1週間、ドル円は、133.80~135.80円、またユーロドルは、1.0120~1.0320、対円は、136.00円~139.00円、英ポンドドルは、1.2000~1.2300と予想する。
(2022/8/10、 小池正一郎)