雇用統計で、メインの指標(非農業部門雇用者数、失業率、平均時給)が予想を大きく超えるデータが出たことで、びっくりドル買いが殺到した。しかし物価指標の結果は全くその反対となり、1日で3円以上のドル下落になった。消費者物価(CPI)、生産者物価(PPI)ともに予想以上の低下となり、ドル買いポジションの解消などの反動が大きく出たことでドルは急落した。
ドル円は、PPI発表直後は下落したが、その日は終わってみればドル上昇の陽線となり、今週に入ってもドルは堅調に推移している。この理由を探ってみた結果、(筆者が想定している)ドルの低下局面はまだ始まっていないという見方が、米国には多いとわかった。それどころか、これから長丁場となるインフレ解消が始まったばかり、FRBの利上げは長続きするとの見方が大きいと感じた。
米国の友人からは、その見方により、株価はもう一度大きく下落すると考えるファンドが依然として存在すると伝えてきた。その一つの例として、CPIの高さである。今月の発表でCPIの前月比はゼロ%、すなわち前月からは下がっていない。しかし年率では8.5%の上昇と前月(+9.1%)からは低下しているが、相変わらず約40年ぶりの高水準であることには変わりがない。
そこで面白いデータを示してくれた。それは前月比の上昇幅が今後ゼロ%で12月まで続いた場合、12月の年率は+6.3%とFRBのターゲット(2%)にはるかに及ばないというデータであった。上昇率が0.2%/0.4%/0.6%の場合は、年率はそれぞれ7.6%/8.9%/10.2%の上昇となる。
そして改めて現状を示す言葉として、今は「the End of the Beginning」(始まりの終わり)という言葉を学んだ。元英国首相のチャーチルが1942年にドイツ軍を破った「エル アラメイン(El Alamein)の戦い」の後で発した有名な言葉である。~「これは終戦ではない(not the End)。また終わりの始まり(the Beginning of the End)でもない。しかし、たぶん、これは始まりの終わりである」~
CPIを分析すると、イ)今月の前月比ゼロ%は前月の急上昇(+1.3%)の反動であること。ロ)低下要因の一つはエネルギーだが、これは毎月乱高下する(前月は前月比で+7.5%で、今月はマイナス4.6%)ので、1か月だけのデータで判断するのは早計であること。ハ)足元では、依然として高水準(直近の3か月で年率+9.5%、6か月で同+9.7%)あること、などがある。今後上昇率が低下しても、来年5-6%迄下がっていくことは容易に想定できるが、これがFRBのターゲット2%になることは容易なことではない。すなわちFRBはこれからも引き締めを継続していく。これが始まりの終わりを意味する、と理解した。
さて、今後1週間の予想は、ドル円はドル堅調の133.00~136.00円、またユーロドルは弱含みの1.0060~1.0310、対円は135.50円~138.50円とする。一方英ポンドドルは、今日7月消費者物価が年率10.1%と40数年ぶりの大幅な上昇が発表されたことで、次回(9月15日)の利上げ期待が出てくる反面、一方で景気後退懸念からのポンド売りも予想されることから、先週と同じ1.2000-1.2300を予想する。
(2022/8/17、 小池正一郎)