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市場養生訓

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第741回

2018年10月16日

 「中央銀行は狂っている」「中央銀行のトップには失望した」もし大統領や首相がこんな発言をしたらその国の通貨は売られるはずだ。金融政策や通貨への信頼が懸念され資本流出が起こる可能性が高くなるからだ。

 最近の例ではトルコの大統領がリラの下落に拍車をかけた。だがトランプ大統領のケースではそれほどの影響は見られなかった。IMF専務理事のラガルドやFEDの前議長イェレンはFEDの政策や独立性の擁護に回ったが、市場ではトランプ発言が尾を引いている様子は今のところ見られない。

 これは、狂っているのはFEDではなく、トランプだと市場が認識しているからかもしれない。あるいは言葉よりも実際の行動や成果で判断すべきというトランプ大統領への対処法が定着したのかもしれない。

 とは言ってもトランプ政権の発言を全く無視するわけにもいかない。

 先週、財務長官は中国に対し、貿易問題に関連して通貨切り下げを図るべきでないと言った。確かに人民元(CNY)は対ドルで年初に比べ7%ほど下落している。だが人民元の下落の主な要因は、ドル金利の上昇、中国経済の成長鈍化、金融緩和政策などで、ドル買い人民元売りの一方的な市場介入の結果ではない。財務長官もその点は理解しているはずだが、米中貿易戦争が全般的にエスカレートする中で、為替レートの問題はいつでも使える武器にしておきたいということなのだろう。

 それに今月中には主要12か国の貿易相手国に関する半期に一度の報告書を議会に提出することになっている。相手国が通貨操作国かどうかの判断だ。そう判断されると報復措置が発動される。

 判断の基準は、200億ドルを超える対米貿易黒字国、GDPの3%以上の経常収支黒字国、GDPの2%を超える一方向の継続的な市場介入実施国、の三つだ。

 中国は一番目の対米貿易黒字額は基準をはるかに超えているが、他の二つは基準以下だ。経常収支の黒字はここ数年GDPの1%台に減少している。介入も確かに中国の為替制度は管理変動相場制で継続的な介入を前提にしているが、一方向だけの介入ではない。最近ではその頻度も減少傾向にある。

 その点では中国を為替操作国と規定することには無理がある。もちろん日本に対しても同様だ。

 だが2015年に作られた基準を財務省が無視する可能性は否定できない。何と言ってもトランプ政権だ。

 ただ仮にそうなったとして米中貿易戦争はエスカレート必至だが、為替レートへの影響という点ではある程度人民元高圧力がかかっても中国は困らない。むしろ一層の人民元安トレンドを抑制するので好都合だ。チャイナショックの再来は避けたいからだ。それより円高の進行で日本が一番困る。


※当コラムは毎週火曜日の更新です(火曜日が祝日の場合は休載となります)。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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