経常収支の赤字がGDP比で5.2%とは、ドル売りの主因が米国の経常収支の赤字だった頃の水準と同じだ。昨年の英国の経常収支の規模だ。当時、この規模の赤字はsustainable(維持可能)ではないと言われて、ドルの下落につながった。
だがそれよりも注目すべきは海外投資からの収益を示す所得収支の傾向だ。英国というと貿易収支は赤字でも、海外に広がる投資資産からの収益が潤沢で、かっての大英帝国も伊達ではない、というイメージがあった。それは市場の中でも固定化されてきた。その所得収支が赤字傾向を示してきた。
こうなったら英国は海外からの資本流入策を本格的に考えざるを得ない。しかし実際に直面しているのはBrexit(英国のEU離脱)の是非での国論の二分だ。本格的な資本流入策を検討しても投票の結果次第で変わってしまう。
英国の経常収支の動向は、投票の結果がEU離脱になった場合のポンドの下落リスクを一層大きくしている。通貨オプションのボラティリティーが高まり、ポンドのプットが大きく買われるのは当然だ。
こうした点を考えればポンドはいつ急落してもおかしくはない。それでも急落がないのは、FEDの利上げスタンスが変わったことが第一にある。FEDが量的緩和を始めたときにドルは先進国通貨、新興国通貨すべての価値を上げたが、それには及ばないが相当な影響を与えているのは確かだ。他にもユーロ圏、スイス、スウェーデンなどのマイナス金利政策の影響も無視できない。
それに何よりBrexitが否決されたときのポンドの戻しも短期的には大幅になるとの読みもある。これらの要因がポンドの急落にブレーキを与えている。
そのため為替でストレートにポジションを持つよりも通貨オプションということになるのだろう。
いずれにせよこの夏に向けてポンドが熱くなるのは避けられない。