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市場養生訓

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第620回

2016年05月10日

 たぶん世界は通貨戦争の新たな局面にある。世界金融危機後の先進国の量的金融緩和政策により引き起こされた第一次の局面。特に米国の威力は突出し、ドル安が世界を席巻した。新興国には大量の資本が流入し、通貨は急騰した。経済がバブル化した国もあり、当局は市場介入や資本流入規制で対抗した。米国のQE2(量的緩和第二弾)の前にはブラジルの財務大臣が公然と米国を通貨戦争の仕掛人と非難した。


 次の局面は米国が量的緩和政策を終了し、利上げに向かう局面だ。新興国は大量の資本流出を何度か経験した。大幅な通貨安、外貨準備高の急減、外貨債務の実質的な膨張、これらが一層の資本流出に拍車をかけた。新興国はもとより、IMFも米国の金融政策の批判に加わった。


 これまでの局面の主戦場は米国対新興国だったが、新たな局面は先進国同士が主戦場となる。戦いのきっかけは日本のマイナス金利導入だ。この時にBOE総裁が日本を批判したのは象徴的だ。これまで先進国が互いの金融緩和政策を批判したことはなかった。デンマーク、スウェーデン、スイスがマイナス金利を導入したときはもちろん、ECBの時もだ。


 マイナス金利が通貨高の抑制あるいは通貨安を目指すことは自明だが、改めてゼロサムゲームだと批判した。なぜか。マイナス金利は消費や投資より貯蓄が多いことの結果だが、この過剰貯蓄が外国に輸出され、その国の短期金利の下落圧力になるからだ。つまり英国もそして米国もマイナス金利化を恐れているのだ。


 その意味では今回の米国財務省の為替報告書は従来の議会との政治的駆け引きの道具という面よりも、通貨戦争の武器として捉えた方がいい。


 為替操作国としての認定基準は二国間の貿易収支、経常収支の対GDP比、為替介入額の対GDP比だ。ドイツ、中国、台湾、韓国、日本が監視対象リストに上げられているが、重要なのはドイツと日本だろう。


 こうした具体的な話が先般のG7でも議論されず、米国も為替報告書を発表し、日本では財務大臣が介入の声を張り上げている。G7という本来なら協調体制を模索する場が機能せず、場外で殴り合いをしている。


 G7ではマイナス金利の国の方が多くなった。英米加VS日、独、仏、伊の戦いは世界の市場のボラティリティをかってなく高める可能性がある。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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