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市場養生訓

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第645回

2016年11月08日

 いよいよ米大統領選が迫ってきた。トランプが共和党の候補者になることも、投票日直前まで民主党候補と僅差の競り合いが予測されることも、想定外の人々が多かった。市場参加者も例外ではない。

 つまり現段階でもトランプが勝った時のリスクは市場価格に織り込まれていない。これまではメキシコペソがリスクをもっとも繁栄した動きをしてきた。昨日はクリントンのメール問題がとりあえず落ち着き、メキシコペソは2.5%ほど戻した。カナダドルなどもNAFTA(北米自由貿易協定)通貨として最初の討論会の時は大きく変動した。しかし新興国通貨全般の売りにはつながっていない。

 ペソの他はリスクオンオフのトレードがあった。トランプのリスクとしては為替では円などの安全通貨や金が買われ、国債も買われた。そして株などのリスクオン商品は売られた。だがその変動は小手先程度だ。大きなポジションを持ってリスクに向かう市場参加者も多くはない。

 これは一つには、BREXITのトレードで政治的リスクを負うのは割に合わないことを市場参加者が思い知らされたことと、もう一つはトランプの言動と実際の政策の間合いを図りかねている点がある。

 とりあえず今のところはトランプ勝利の場合、為替に関してはドル売り、NAFTA通貨売り、安全通貨買い、クリントン勝利はリスクオン取引が優勢になり、FEDの利上げも12月の実施が見込まれることからドルが買われる、というのが一般的な見方だ。

 普通ならBUY THE RUMORE, SELL THE FACTで結果が出ると、市場では逆の動きをする場合がよくある。だが今回はポジションが積みあがっていないので、結果判明を機にトレンドが明確に出る可能性が強い。

 ただこれらは短期的な変動の見通しだ。今回の選挙を通して明らかになったのは米国のシステムの危うさだ。メールは簡単に漏洩されるし、FBIや政党などの組織もうまく機能していない。ロシアや中国に情報管理の点でも見劣りがする。経済的にも安全保障的にも文化やモラルの点でも米国の国際的な地位は低下している。帝国的な地位にはもはやない

 唯一米国が帝国的な地位を保っているのが通貨だ。経済的にも政治的にも米国との繋がりよりもロシアや中国の繋がりの方が大きい中央アジアの国々でさえ、ドルが圧倒的に力を持つ。外為市場の取引でもドル絡みの取引が9割近い。外貨準備もドルが世界の6割を占める。

 ただこうした通貨の優位性も経済、軍事、文化の力の優位性が低下すればいずれそうした実態を反映するようになる。トランプはそうした米国の衰退を先取りする歴史的な大統領候補であるのだろう。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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