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市場養生訓

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第657回

2017年02月07日

 トランプが以前リングに上がったことのあるプロレス団体WWEでの人気興行の一つにロイヤルランブル戦がある。多くのレスラーが次々とリングに上がり闘い続け、最後までリングに残った者が勝者として称えられる。実力者が必ずしも勝者になるとは限らない。戦略が重要で、仲間ともうまく闘わなければならない。

 トランプ新政権が仕掛けた貿易戦略はまさにロイヤルランブル戦だ。まずリングに上がったのは米国だが、次にメキシコ。直接投資の減少、ペソの大幅下落でノックアウト寸前までいった。プロレスのロイヤルランブル戦ではトップロープから落ちてリング外の床に両足を着いたら失格(負け)になる。メキシコは大統領との会談をキャンセルしたが、それはトップロープから落ちても片足で踏ん張り、リング内に入ることを止めて息を整えている状況と言える。

 次の相手はドイツ。米新政権で通商政策を仕切るナバロはユーロ安をドイツの策略と断定し、米国やEU諸国を食い物にしていると非難した。ドイツの経常収支の黒字の拡大と投資の抑制は2012年のユーロ危機の際にも他のEU諸国からの批判の的になった。EUにくさびを打ち込もうとする戦略だ。仲間割れを誘う、これもロイヤルランブル戦の常とう手段だ。

 ここでリングに引っ張り上げられたのがECBだ。ドイツの財務大臣は、ユーロ高を望むが、ECBの過大な金融緩和のせいでユーロ安になったと矛先をECBに向けた。

 ECBはドイツに反論する代わりに米国に挑んだ。新政権が推し進めようとする金融規制緩和は金融システムの安定にとって望ましくないと主張。米国の保護主義はEUの理念である自由貿易とは相いれず、米国のEUやユーロ批判には断固反対する姿勢を見せた。ユーロ安については、米国とユーロ圏の金融政策が別方向に向いていることから生じていることで、ユーロ安操作の指摘は当たらないとした。

 次は日本の出番だ。トランプの円安操作発言の先制攻撃で一瞬たじろぎロープ際に後退したが、ここで息を整える間を取った。10日の日米会談は反撃の時だ。逃げ回り、リングのエプロンサイドで情勢の変化を待つか、多国間貿易協定や金融政策の正当性を主張して引かない姿勢を見せるか。少しでも油断すれば相手から円高誘導発言が出る可能性がある。

 そして中国。米国がマイクパフォーマンスで挑発したが、まだリングに上がるそぶりを見せていない。ロイヤルランブル戦は体力の温存や戦略などの点から遅く出場した者が有利とされる。米国の消耗のタイミングを狙って反撃の糸口を探ろうとしている。それは更なる米国債売りかもしれない。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。

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