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市場養生訓

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第819回

2020年06月23日

 米国の要職をリタイアした人物が回顧録を書くのは珍しくない。それも職を離れて時間をおかず出版されることが多いので興味深い。市場関係者にとってこれまで印象的だった回顧録には、クリントン政権の財務長官のルービンやFEDの議長グリースパン、バーナンキなどによるものがある。それらの中で強いドルを望む米国の通貨政策の背景が明らかになったり、米国の金融政策が当時一般に認識されていた国内要因だけでなく海外要因も考慮されて決定されることなどを知った。
 今日発売予定のトランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官ボルトンの回顧録もまた市場関係者にとっても興味深い点が含まれている。それはトランプ政権が出版差し止めで提訴していたが棄却されたことや、在日駐留米軍のコスト負担をめぐる交渉の内幕などではない。経済制裁を巡って財務長官のムニューシンを揶揄している部分だ。
 トランプ政権は政治的目的を達成するために経済制裁を多用してきた。ロシア、中国、イラン、ベネズエラなどに対してだ。その他の国にも経済制裁をちらつかせて交渉を有利に運ぼうとするのが常とう手段だ。こうした経済制裁が効果的である理由の一つにドルの役割がある。ドルが国際的取引の決済手段として圧倒的な地位を保っていることだ。
 ボルトンによれば、ムニューシンは経済制裁の多用に及び腰だ。というのも経済制裁の多用はドル離れを招きドル価値の下落と金融市場の混乱をもたらす可能性があると見るからだ。こうしたムニューシンの考えは政治的目的の追求のために効果的な手段を用いるのは当然と考えるボルトンにとって、優柔不断で肝っ玉が据わっていないように見える。
 面白いのは次の点だ。トランプ政権の中で要職に就いた者の多くは首になって政権を去っているが、ムニューシンが財務長官に留まっているのは大統領も同類だからと言う。つまりトランプも優柔不断で信念がなく、チキンハートだと言うのだ。多くの国に経済制裁を課しているトランプ政権だが、それが確固たるものではなく、そのマイナス面をいつも気にしているとしたら世界のトランプ政権に対する戦略も今後変わってくるかもしれない。
 ボルトンの本は嘘の塊だとのムニューシンを含めたトランプ政権側の反論はあるが、その真偽はともかくとして、経済制裁がドル離れとその弱体化や金融市場の混乱に繋がるとの見方は的を得ている。
 制裁を受けた国をはじめ、そうした可能性を懸念する国がドル基軸通貨体制の変更を追求するのは当然のことだ。実際にそうした動きは始まっている。中国による人民元建ての原油先物市場の創設、ロシアの外貨準部の中でのドルの割合の大幅な低下、旧ソ連諸国、中国、その他親ロ,親中諸国間での貿易決済でのドル建ての減少、EUのユーロ基軸通貨化への試みなどだ。
 ではドル離れの進展はどの程度進んでいるのか。全体から見れば歩みは遅々としている。今回のコロナウイルスの騒ぎでも世界はドルの重要性の認識を新たにした。世界的にドル不足が大きな懸念材料になり、主要国はFEDとのスワップ協定によりドル資金の供給を受けた。それに原油取引のほとんどは依然としてドル建てだ。世界の外貨準備に占めるドルの割合は6割と次のユーロの2割とは大きな差がある。
 しかし今のドルの地位もひところから見れば低下している。外貨準備の割合も長期低減傾向が続いている。6割を切るのは時間の問題だ。
 こうした歴史的な流れにあるドルとそれが支える米国の力にムニューシンが懸念示すことは決して臆病からではないだろう。大統領はそこまで考えてはいず、大統領選のことで一杯だろうが。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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