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市場養生訓

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第835回

2020年10月27日

 中国は新たに世界で覇権を握ろうとしているのではなく、単に元に戻りつつあるだけだ。18世紀の清の時代には世界のGDPの3分の一を占めていたのだから。今世紀の初めころ度々言われたことだ。
 同様にトルコもオスマン帝国時代に戻る野望を抱いているのではないか、と思われるほど最近のトルコの対外拡張政策は目立つ。アゼルバイジャンとアルメニアとの戦いへの介入、東地中海の海底油田を巡る権益争い、シリアやリビアの内戦への介入、そして欧州に対する強硬姿勢などだ。
 だが最近の通貨の動きを見ると両国は大きく違う。人民元もトルコリラも代表的な新興国通貨だが、人民元は上昇トレンドにあり、トルコリラは歯止めの利かない下落トレンドにある。
 ドルリラは昨日8.0の節目を超えて史上最高値(リラの最安値)を更新した。今年は7.0の節目も突破し、年初来では27%のリラの下落になった。直近では8.10台で推移している。
 リラ下落の要因としては、中央銀行が前回の政策決定会合で政策金利の引き上げを見送ったこと、(銀行の借入金利の一部は引き上げたが)、地政学的なリスクの深まり、米国による経済制裁の可能性、バイデンが米国大統領になったらその可能性が増す、通貨安の進行によるインフレの高進、先月は年率11.75%だった、外貨準備の大幅な減少、つまり市場介入資金の乏しさ、外貨債務を負う企業の支払い問題の増加、そして何よりインフレ抑制のためには利上げでなく利下げが適当との考えを持つ大統領に対する国際市場での不信がある。
 つまりリラはネガティブな材料に埋もれているわけで、この状況から脱することは容易ではない。ではリラが反転する可能性はないのか。
 一般的には政府・中銀は利上げを含めた緊縮的な総合的経済対策を講じて反転を促すのだが、コロナウイルスによる需要の落ち込みで大胆な緩和的政策が求められる中では難しいだろう。
 そうなると他力本願になる。一つはリラショートのポジションが溜まり、市場の自律反転作用としてショートカバーが誘発されリラが買い戻される可能性、もう一つはドルの大幅な下落だ。大統領選後にそうした局面が出れば反転の可能性もある。
 いずれにせよリラが独力で価値を回復する可能性は小さい。オスマントルコの野望は中国の世界覇権よりもはるかに難しそうだ。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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