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市場養生訓

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第849回

2021年02月09日

 インフレを巡る論争がヒートアップしている。バイデン大統領の1.9兆ドルの財政支出案に対し、元財務長官のサマーズが異を唱えた。既に決まった支出を合わせると5兆ドルにも及ぶ支出は制御が困難なインフレに繋がる可能性を指摘し、そうしたインフレを抑制しようとすれば深刻な不況が避けられなくなるとした。スタグフレーションだ。それは金融安定やドルの価値を大きく揺らす。
 バイデン政権の財政責任者のイエレン財務長官は反論した。大規模な財政支出は失業者や格差を強いられた弱者に必要なもので、大規模なリスクは小規模のリスクより低いとした。インフレのリスクも考慮していて顕在化した場合の対応策も十分備えていると主張した。
 彼女の労働経済学者としてのプライドとFRBでのインフレ対策の経験に基づいた反論だ。サマーズはFEDの議長の座をイェレンと争ったことがあるが、その辺の事情も合わせるとおもしろい。ちなみにサマーズは女性への差別的な態度で批判を浴びたこともある。
 昨日はFEDの理事の一人も財政刺激策が制御困難なインフレを引き起こす可能性を否定した。
 市場の反応だが、長期金利は上昇傾向だ。米国10年債のイールドは昨日1.20%を超えたが直近では1.17%水準だ。30年債は2.0%を超えた。短期金利については市場のレートを見る限り年内に引き締めに転じるような見方はない。イールドカーブのスティープニング化は今後も進む可能性が高い。
 インフレの為替レートへの影響については初期段階では金利上昇によりドル高傾向になりやすいが、中長期的にインフレが高進する局面では、インフレによるドル価値の低下が米国からの資本流出を促し、ドル安傾向になる可能性が高い。
 サマーズが懸念するインフレやスタグフレーションについては、米国の歴史の中では70年代が事例になる。70年代を通じてインフレ率は上昇して10%を超える高インフレを記録した。4%から13%(CPI)まで上昇した。
 インフレの要因としては主に4つある。一つは賃金の上昇だ。労働組合が強く福利厚生費を含めた労働コストが硬直的になった。次に軍事費の増加がある。冷戦下で軍事費は膨張傾向にあった。特にベトナム戦争は拍車をかけた。3つめは金本位制からドル本位制への転換だ。ドルが金の裏付けを絶った。ドルは中長期的な下落傾向を辿った。4つ目はオイルショックだ。中東戦争を契機に原油価格が4倍以上に跳ね上がった。その後も上昇傾向が続いた。
 ここでサマーズとイェレンの論争に戻るが、どちらが説得力があるだろうか。政治的にはイェレン、経済学的にはサマーズとの印象はある。ただ市場参加者の立場としてはサマーズが正しい場合の影響があまりにも大きいので、そうした可能性も一つのシナリオとして資産のポートフォリオやトレーディングの指針作りに加えた方がいいだろう。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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