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市場養生訓

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第865回

2021年06月15日

 ギリシャの5年物国債のイールドが昨日初めてマイナスになった。二けたの金利を提示してもほとんど見向きもされず、ユーロ圏からの離脱を強いられる寸前だったギリシャの国債が、今では投資家は利息を払わなければ買えなくなった。
 ECBが金融緩和政策の一環としての国債購入のペースを維持することを決めたことが直接の要因だ。だがその背景には少しでも高いイールドを求める世界中の資金がリスクを厭わない姿勢を強めていることがある。その結果ハイリスク、ハイリターンがハイリスク、ローリターンに移行している。
 こうした市場環境ではリスク管理が甘くなり、想定外の損失が累積し問題になるケースが出ても不思議ではない。むしろ市場はこうしたケースを歴史的に繰り返してきた。為替市場でも同様だ。
 スペインのワイン輸出業者が為替取引を巡る損失で金融機関を告発した。BNP、ゴールドマン、ドイツ銀行だ。金融機関が為替取引、特にスワップ取引に関するリスクの十分な説明がなかったとのことだ。
 BNPのケースでは2020年までの5年間で7千5百万ユーロの損失だ。輸出なのでユーロ買いドル売りの取引が主になる。ヘッジ取引だけならユーロ買いドル売りの先物予約と直物取引で済む。ところが輸出業者はBNPと5年間で8400以上の取引、1営業日平均6取引を行った。しかも損失はほとんどスワップ取引に関連していたと報じられた。
 こうした内容から推し量ると、輸出業者はヘッジ取引だけでなく投機取引をしていたことは明らかだ。そして損失が出るとポジションをスワップで先送りしていた。
 決算時を超えて損失の先送りの方法はスワップの時に適用するレートを含み損のポジションのレートを基準にスワップポイントを加減するか、その時の実勢のレートを適用する場合は発生する損失に見合う額のプレミアムになるような通貨オプションを売ることだ。そのオプションは評価しないようにする。あるいはポジションパークと言って、親しい取引先にポジションを一時的に移す。もちろん相手の口が堅いことが前提だ。
 これらは不正取引だが、欧米や日本で過去に数多く起きた事例の一部だ。こうした不正取引を防ぐためには決算のレートを実勢レートにする、市場で常時取引されないデリバティブのポジションも時価評価を心がけることが不可欠だ。それに総為替取引数の限度額の設定もリスクマネージメントの方法の一つだ。
 今回のケースではこの限度額が設定されていればもっと早く経営陣が気づいたはずだ。
 私の推論では輸出業者の担当者とその会社の経営管理に問題があるとの判断だが、告発は輸出業者によるBNPなどの金融機関に対してだ。BNPが取引で1億ユーロ以上の利益を上げたとか、ドイツ銀行の二人の責任者が辞職したとかの報道を見ると、金融機関にも相当の問題があった可能性はある。

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プロフィール

  • 著者近影 小口 幸伸(おぐちゆきのぶ)
    1950年生まれ。通貨・国際投資アナリスト。 元ナショナルウェストミンスター銀行国際金融本部長。 横浜国立大学経済学部卒業後、シティバンク入社。変動相場制移行後間もなく為替ディーラーとして第一線で活躍。シティバンクのチーフディーラーとなる。その後ミッドランド銀行為替資金本部長を歴任。


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