正直、1週間前の時点ではもう少しドル/円や日・米株価に対して強気であった。ところが、あれから1週間でドル/円は再び116円台、日経平均株価は1万6000円台に値を沈めている。市場では実に様々な後づけ講釈が飛び交い、一部の識者が手前勝手なことを言い放っているが、どれも断片的過ぎていたり偏り過ぎていたり(あるいは感情的になり過ぎていたり)して、どうにも納得が行かない。ここは真に冷静になって、個々の事柄を理知的に整理しておくことが必要となろう。
まず、目下の市場ではドルに対する見方が弱気に傾き過ぎているように思われる。確かに、最近発表された米指標の多くがあまり冴えない内容であったことは事実だが、たとえば「景況感指数」などというのは、あくまでアンケート調査の結果であってその時々のムードによって一時的に強含んだり弱含んだりすることはある。
年初からの米株価の調整もムード悪化の一因だろうが、1月は米主要企業の決算発表があるために自社株買いが行えず、もともと株価は調整しやすい。逆に、決算発表が一巡すれば自社株買いも入りやすくなり、今週以降はそれが米株価の下支えになる可能性も十分にある。なにしろ、米企業は過去3年間で計1兆4500億ドルもの自社株買いを行っていて、それが過去の株価上昇の原動力となっていたのである。
日本株についても、2016年3月期通期の会社予想に下方修正が目立つことで強い下押し圧力がかかっているが、これもあくまで各社の担当者の「予想」である。年初からのムードを考えれば、少々控えめになるのも当然だが、最終的には3月末時点の外国為替レートが大きくモノを言う。なかには「業績が悪いのだから株価が下がるのは当然」などと述べる輩もいるが、それは少々乱暴な物言いであると思われる。
「下げ相場に好材料なし」というのはわかるが、先週末(5日)発表された米1月の失業率(4.9%)や平均時給の伸び(前年同月比2.5%)などは、相当に強い結果であったと言っていい。よく「顕著に改善しているのは雇用と住宅ぐらい」などと評されるが、そこがすべてのスタートである。低インフレの状態が続くなか、実質賃金は伸びているのだから、いずれ消費は伸びてくるだろうし、前出の「景況感指数」も改善しよう。
日銀によるマイナス金利導入の効果が現れてくるのも、むしろこれからであると思われる。先週4日付の日本経済新聞でも触れていたが、実際にマイナス金利が適用されるのは来週16日からである。外国為替市場は「長期金利よりも政策が直接影響する短期金利を意識しやすくなる」のであって、今は日米短期金利差に注目して行かねばならない。
実際に、日銀サプライズ緩和以降、9月物のFF金利先物とユーロ円金利先物の差は拡大する方向にある。まして、日銀がマイナス金利の水準をさらに引き下げる可能性も十分にある。そう考えれば、ドル/円の下値余地にも自ずと限界はあろう。
ドル/円の昨年6月高値と8月安値、11月の戻り高値を元に弾き出されるN計算値は114.02円で、これは一つの目安と考えていいものと考えられる。実のところ、114円台前半の水準には一目均衡表の週足「雲」下限も控える。また、ドル/円の2011年10月安値から2015年6月高値までの大幅な上昇幅に対する23.6%押しの水準もほぼ114円であり、このあたりには複数の節目が控えていると考えていい。
今週10日に予定されるイエレンFRB議長の議会証言にタカ派色を期待することは難しいと思われるが、今週は上海市場が週末まで休場となる(香港は10日まで)ため、少しばかりリスク回避ムードが緩む可能性もある。
(02/08 08:35)