前回更新分の本欄で「今しばらくパニック状態は続きそうであり、なおも基本的には様子見を続けたい」と述べたが、あれから1週間が経過するなかで市場に生じているパニックは一段と勢いを増している。世界の主要な中央銀行は協調して資金供給を拡大しているが、それでもNYダウ平均は19000ドル割れをうかがう動きとなり、NY原油先物価格は一時的にも1バレル=20ドルの水準を割り込んだ。
やはり目立つのは、何よりドルの急騰である。聞けば、米株価や原油価格、金価格などの大幅下落に伴って、巨額の追証(マージン・コール)が発生していることも一因であるとのこと。足下では、ドルキャッシュの需要が見る見る逼迫しており、その様はマスクやアルコール消毒液などの各種衛生用品に人々が殺到している状況にも似る。
もはや、人々の疑心暗鬼はなかなか解消されず、足下では「ドル枯渇懸念」を背景とした「ドル不足」が生じている。前回更新分ではユーロ下落の可能性について触れたが、足下でユーロ/ドルが1.0700ドルを下回る水準まで急落してきている状況は、もはやユーロ売りというよりも強烈かつ急激なドル資金需要の拡大によると見るべきであろう。
一方でドル/円は、先週末21日に一時111円台半ばの水準まで上値を伸ばす場面があり、今のところ3月の月足ロウソクはかなり長い下ヒゲを伴う長めの陽線となっている。当面は、一目均衡表の月足「雲」上限(現在は111.74円)や62カ月移動平均線(現在は112.04円)を上抜けるかどうかが一つの焦点になると見ておきたい。
「先行きを悲観する報道や予想レポートはもうたくさんだ」という向きも少なくはないだろう。筆者自身も極力前向きなニュースを探し出すことに注力しているが、必ずしもお先真っ暗というわけではないことも事実であり、場合によってはそう遠くない将来において幾つかの朗報を耳にする可能性も十分にあると思われる。
先週、バーナンキFRB元議長とイエレン前議長は共同でフィナンシャル・タイムズに寄稿し、企業の資金繰りを支えるため「FRBは投資適格社債の買い入れなども検討すべき」と主張した。イエレン氏は過去に「FRBが株式購入を認められれば、景気悪化時の刺激策として有益になり得る」との考えを示したこともある。
実のところ、今月6日にはボストン連銀のローゼングレン総裁が「(FRBに)幅広い証券あるいは資産の購入を認めるべき。そのような政策を実施するには米連邦法の改正が必要」と述べていた。この発言を受けたウォール街の一部では、日銀の話題をも織り交ぜた会話の中に、ローゼングレン総裁の発言にあった「幅広い証券あるいは資産」というのは「株式も含む」との見方が浮上しているとされる。連邦準備法の変更には多少の時間を要するかもしれないが、とりあえず「政府・当局が議会に検討を要請した」との報が流れるだけでも、市場の疑心暗鬼はかなり解消されるはずである。
まずは投資適格社債の買入から段階的に試みて、場合によってはそれを株式買入にまで拡げて行くというのも一法ではないか。いずれにしても、まだFRBには切れるカードが残されている。それも、かなり有力なカードと言っていいだろう。
他方、先週21日の日本経済新聞電子版では「新型コロナ研究成果相次ぐ 体内侵入時、細胞と結合強く」との見出しで、新型コロナウイルス感染症の治療の難しさを克服する手がかりが見えてきたとの報がなされていた。
先週あたりから「ウイルス治療に既存の抗ウイルス薬が有望であると分かり、早期に使える可能性も出てきた」との報も目耳にされるようになっており、場合によっては数カ月のうちに医療現場で使えるようになる可能性もあるという。むろん、いたずらに楽観し過ぎることも憚られるが、ここは決して狼狽えることなく、一部で囁かれる「一生に1度の大チャンス」のときを静かに待ちたい。
(03月23日 08:55)