先週末27日の米株市場でNYダウ平均は前日終値比915ドル安と大幅に下落することとなった。「米国の新型コロナウイルスの感染者数が中国やイタリアを上回ったことで、収束までの長期化見通しが強まり、米国経済への影響が懸念された」との解釈も成り立たなくはないが、むしろ前日までの3日間で4000ドル近く上昇したことに対する当然の反動と見るのがより適切であろう。
むろん、先週の「3日間で4000ドル近く」という戻り自体が自律反発の域を出ないことは言を俟たない。依然、市場のボラティリティーは異様に高い。とはいえ、27日に米国で成立した2兆ドル規模の新型コロナウイルス対策に対する評価が米株価に反映されたことも事実であるうえ、少し溯って先週23日に米連邦準備理事会(FRB)が発表した「経済支援策第2弾」がパニックの鎮静化に大きく貢献したという点も見逃せない。
既知のとおり、この支援策は「FRBが米国債と政府支援機関(GSE)保証付きの住宅ローン担保証券(MBS)を無制限に(必要なだけ)購入する」というものであり、さすがに同策のメッセージは市場に強く響いた。言うなれば、必要な分だけありったけのドルを提供しようということなのであるから、それまであったドル枯渇懸念は一気に後退し、わかりやすくドル買い需要は低減した。
その結果、先週は対ドルで円やユーロを買い戻す動きが急となり、ドル/円は111円台後半の水準から108円割れの水準まで急激に下落、ユーロ/ドルは1.0635ドルから1.1150ドル近辺まで大きく上昇することとなった。
その一方で、3月23日と24日のNY金先物価格は2日間で1トロイオンスあたり176ドルもの値上がりを見た。これも一つの象徴的な出来事であったと言っていいだろう。なにしろ、先々週末までは何が何でもドルキャッシュを手当てしたいとする向きが、安全資産であるはずの金(ゴールド)まで次々に現金化しようとしていたのである。
ここで考察しておきたいのは、一つに米政権が打ち出した史上最大2兆ドルの対策は果たして十分かという点であろう。実のところ、すでに米国のエコノミストや地方自治体などからは金額が不十分であるとして、早くも追加策の策定を求める声が挙がっているとも聞く。もちろん、それは感染症の拡大がピークアウトすると見られる時期との兼ね合いで今後段階的に検討されることとなるのであろう。一部では「リーマン・ショック級かそれ以上」などとする向きもあるが、そもそも今回の危機はリーマン・ショックとは根本的に性質が異なるということも再認識することが重要と考える。
また、先に記者会見に臨んだクドロー国会経済会議(NEC)委員長やムニューシン財務長官は「(今回の対策によって)FRBには新たに4兆ドルの資金供給能力が生まれる」と述べている。その具体的な中身には「FRBによる社債の購入」も含まれると考えることができ、そうなればFRBの役割は従来の金融支援から産業支援へと大きく広がる。
前回更新分の本欄でも述べた通り、社債購入は有力な一手と見ていいだろうし、最終的には株式購入を検討する可能性だって皆無とは言えない。つまり、FRBにはまだ切れるカードが十分に残されている。よって、いたずらに悲観に傾くことは慎みたい。
また、ドル枯渇懸念の後退によって促されたドルの売り戻しはいつまで続くかという点も十分に考察しておきたい。当然、米政府やFRBが次々に繰り出す策は其々に有効であると思われ、それらは最終的にドルの信認につながっていく可能性が高い。
そう考えると、ドル/円の下値というのも概ね3月9日安値から24日高値までの上昇に対する38.2~50%押し(=107.67円~106.43円)あたりまでに限られてくるのではないか。同様に、ユーロ/ドルの戻りは3月9日高値からの下げに対する61.8%戻し=1.1166ドルが一つの目安になると見られる。
(03月30日 08:40)