先週7日に発表された4月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが前月比+26.6万人と市場の事前予想を大幅に下回った。既知のとおり、予想は100万人超でFOMCメンバーのなかにも強気の見通しを唱える向きが少なくなかった。
そのため、発表直後は一時的に市場で混乱も生じたが、時間の経過とともに本来の落ち着きを大方取り戻す流れとなった。実際、米10年債利回りは一時1.46%台まで低下したものの、後に1.57%台まで水準を戻している。
今回の結果が「事前にまったく予想されていなかった」というわけでは必ずしもない。市場関係者のなかからは、以前から「米政権によって追加の失業保険手当が給付されているうちは、それが本格的な雇用の増加を阻害する可能性がある」との指摘も聞かれてはいた。実際、バイデン米政権は3月に成立した総額1.9兆ドル規模の追加経済対策のなかで失業保険の週300ドル上乗せ措置を9月まで延長することを決めている。
結果、米国では政府による上乗せを含めた失業保険手当の合計額が毎月3500ドル程度にもなる州が少なくないとされ、今しばらくは「あえて働く必要がない」と考える向きも少なくないと見られる。米政府による上乗せ措置は9月が期限であるから、その1~2ヵ月ぐらい前から求職活動を再開する向きが増えると想定するならば、本格的に雇用者数が増加するのは7月ぐらいからと見ることもできよう。
少なくとも、米企業による「求人」の数が足元で見る見る増加していることは間違いない。それは、データが2カ月ほど遅れて出てくるため昨年のパンデミック発生以降は注目度が低下している「米求人労働異動調査(JOLTS)」の推移を見ても明らかである。なかでも、とくに飲食店やケアサービスなどの低賃金業種で人材の手当てが困難になっていることは想像に難くない。
また、昨年春のコロナ・ショックが「季節調整済み」のデータに影響を及ぼしているという事実も見逃せない。その実、調整前の4月の雇用者数は108.9万人もの増加となっていた。むろん、コロナ下で学校が閉まったため今は育児に勤しんでいるというケースもあれば、米株高のお蔭で労働市場から身を引いても生活に困らなくなったという向きもあろう。さらに、折からの世界的な半導体不足で一部の製造業が工場の稼働を一時休止している影響もある。
いずれにしても、今回の米雇用統計の結果が米景気の回復期待に水を差すものでないことは確かである。むしろ、結果が少々“控えめ”なものになったことで、市場に拡がりつつあったFRBによる早期出口戦略着手の思惑もやや後退し、米株価は堅調な推移を続けている。今回の結果は、またも米株価にとって「都合のいい」ものとなったわけである。
その一方で、先週7日のドル/円が一時108.40円処まで下落し、結果的に21日移動平均線や一目均衡表の日足「雲」上限を下抜ける格好となったこともまた事実である。同時に、ユーロ/ドルは4月29日に付けた直近高値=1.2150ドル処を上抜け、一時は1.2171ドルまで上値を伸ばした。
それでも、基本的に円安の流れに変わりはないと見ていいだろう。前述したとおり、7日の米10年債利回りは下げ一巡から一気に切り返して最終的には前日比で若干のプラスとなった。それと同時に、米10年債のブレークイーブン・レート(期待インフレ率)は2.5%台まで大きく上昇している。なおも市場のインフレ期待が高まり続けていることを考えれば、少なくともドル/円の下値は限られたものになると思われる。
米雇用統計発表後のドル/円の急落は、目先のストップロスが大掛かりに巻き込まれた結果であるところが大きいと考えられ、市場が冷静さを取り戻せば再び買い戻しの流れが強まると見る。個人的には、ドル/円の押し目買いとユーロ/ドルの戻り売りでエントリーのチャンスを狙いたいと考える。
(05月10日 07:00)