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第772回 少なくとも円を積極的に買い上がる材料は見当たらない…

2021年09月06日

 先週末3日に発表された8月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが市場の事前予想や前回(7月)数値を大幅に下回るものとなった。米国におけるデルタ変異株の感染拡大によって雇用主が採用に慎重になった模様である。やはりレストラン・バーの雇用者が大きく減少し、小売業、政府機関、ヘルスケア関連なども振るわなかった。
 平均時給がやや大きく上昇したのは比較的賃金水準が低い業種を中心に雇用が減少したからであり、失業率が低下したのは一時的にも求職者数が減少したからである。それにも拘わらず米国債利回りが最終的に上昇したのは、いわゆる「市場の誤り」の部類。後に修正される(利回りが再度低下する)可能性があり、少々注意を要する。

 デルタ変異株の感染拡大が「いまそこにある脅威」であることは言を俟たない。とはいえ、感染拡大の事実が明らかになるにつれ、米政府や米企業などが直ちに対応に乗り出していることもまた事実である。例えば、米国ではワクチン接種済みであることを新規採用の条件にし始めた企業も数多い。そのぶん、採用ペースは一時的に鈍化するだろうが、求職者らのワクチン接種が一段と進めば、いずれ再び採用が活発化する。
 そもそも、7月の米雇用者数の伸びが大きく出たのは、全体の約半分の州において失業保険手当ての上乗せ給付が6月や7月に前倒しで終了したことも一因。その反動が8月に出たということもあるし、残りの州で上乗せ給付が終了するのは本日(6日)であることから、自ずと9月の求職者数は増加傾向を強めると見ることもできるだろう。
 対面方式での授業再開が難しくなっていたり、企業のオフィス復帰が妨げられたりしていることは、目先的な米雇用情勢にはマイナスであるが、それもワクチン展開の一層の拡大によって解決可能である。結果的に感染拡大に歯止めがかかり始めれば、また再び飲食や小売り、ヘルスケア関連などの求人&採用も増えることだろう。
 むろん、今回の米雇用統計の結果は米連邦準備理事会(FRB)の政策判断に多少なりとも影響を及ぼすことにはなろう。少なくとも、テーパリングの開始時期に関する市場の見方には一定の変化が生じるに違いない。
 ただし、テーパリング開始の時期が後ズレするほど、それだけ過分な流動性が市場に供給されることになるという点も忘れてはならない。また、仮にFRBが金融政策の正常化に踏み出す時期を少々先送りするならば、やはり欧州中央銀行(ECB)や日銀が政策方針の見直しに動く時期も先送りされることとなろう。つまり、ユーロや円とドルの関係性は今後も変わることがなく、過度にドル安だけが一方的に進むということも考えにくい。

 先週末3日にユーロ/ドルは一時1.1900ドル台を回復する場面もあったが、これでひとまず当面の上値の目安に到達し、戻り一巡となる可能性も大いにあろう。
 今週9日にECB理事会の日程を控え、先週は関係者らによるタカ派寄りの発言が相次いでいたが、仮に今回の会合でパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)による資産購入ペース減速の方向性が強く示された場合には、結果的に欧州からの米国債に対する資金流入が細ることによって米国債利回りが強含みとなる可能性もある。
 また、ポンド/ドルも当面の上値余地は限られてきつつあると思われる。1日に行われたOPECプラスのビデオ会議では、月間の原油生産水準を漸進的に引き上げる既存の計画を維持していくことであっさり合意し、原油価格の上値余地を拡げるには至っていない。ひとまず、一目均衡表の日足「雲」上限付近で上値を押さえられる可能性が高いと見る。
 なお、先週末のドル/円は8月初旬から形成されている三角保ち合いの下辺で、とりあえずは下げ止まる格好となった。109.50-60円処は一つの重要な節目でもあり、このあたりで下げ渋る可能性は高い。少なくとも、目下は円を積極的に買い上がる材料など見当たらず、いずれ再び110円台乗せから110円台後半の水準が意識されやすくなると見る。
(09月06日 07:00)

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プロフィール

  • 著者近影 田嶋 智太郎(たじまともたろう)
    昭和63年、慶応義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJ証券)勤務を経て、経済ジャーナリストに転身。これまでにNHK「くらしの経済」、テレビ朝日「やじうまプラス」などのコメンテータを務め、年間で全国およそ200ヶ所の講演を続ける。現在は日経CNBC「一発回答!銘柄ナビ」レギュラー。「株に成功する技術と失敗する心理」(KKベストセラーズ)など著書も多数。


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