「大山鳴動して鼠一匹」は少々言い過ぎだろうか。先週開催された『ジャクソンホール』におけるパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長による講演の内容についてである。
事前に市場で一種の“ブーム”にまでなっていた「中立金利(自然利子率)」の考え方に関して、パウエル氏は「中立金利を確実に特定することはできないため、金融政策抑制の正確なレベルについては常に不確実性が存在する(we cannot identify with certainty the neutral rate of interest, and thus there is always uncertainty about the precise level of monetary policy restraint)」と述べるに留めた。至極ご尤もな見解であり、つまるところ事前に市場が“中立金利ネタ”で少々騒ぎ過ぎただけということになるものと思われる。
「騒ぎ過ぎ」という意味では、25日の日経平均株価が今年2番目の下げ幅になったことにも少々驚かされた。件の“エヌビディア狂騒曲”が流れていた最中とはいえ、やはりパウエル講演の内容に対する警戒感がそれだけ強かったということなのであろう。
注目イベントを通過後の市場からは「新たな視点を提供するものではなかった」との評も聞かれる。わざわざ休暇を中断してパウエル氏の講演に耳を傾けていた市場関係者のなかには、肩透かしを食らって直ちに休暇に戻った向きもあろう。結局は「データ次第」であることと米利上げが最終局面にあることに変わりはない。
むろん今後も堅調な指標結果の発表が相次げば、引き締め状態が想定以上に長期化する可能性も否定できない。実際、足元で米10年債利回りが一時4.28%、米2年債利回りが一時5.09%まで上昇する動きとなったことは事実であり、結果、先週末にかけてドル買いの動きが強まったのも当然のことと言える。
ドル/円について言えば、先週25日に一時146.60円台まで上値を伸ばし、今月17日高値を上抜けることとなった。これは、昨年10月高値から今年1月安値までの下げに対する78.6%(黄金比の平方根)戻しの水準であり、目先的に最も意識されやすかったところと言える。つまり、ここからが一つの正念場。週明け以降、同水準を明確に上抜けるようなら、やはり150円処を意識しなければならなくなるだろうし、場合によっては同水準が強い上値抵抗として機能する可能性もあり、どちらに傾くのかしっかり見定めたい。
少々気になるのは、先週23日に発表された米・欧・英の8月の購買担当者景気指数(PMI)速報値がいずれも弱めの結果となった点である。米国PMI(8月)は総合が50.4と前月比で1.6ポイント低下し、これは6か月ぶりの低水準。製造業の指数は前月比2.0ポイント低下の47.0で、4か月連続して50を下回った。
このソフトデータの調査期間は8月10~22日で、足元の景気実感をダイレクトに表していると見られる。言うまでもないが、それに比べれば米インフレ指標などハードデータの類というのは、かなり過去に遡ったものということになる。俗に言う「バックミラーに映る情景」であり、足元では既に変化が生じている可能性もある
振り返ると、8月の米PMIの結果を受けた後、ドル/円は一時的にも144円台半ばまで一気に下押す場面があった。そのことも一応は頭の片隅に置いておかねばなるまい。
もちろん、目の前の相場は先々の景気悪化の兆候を直ちに織り込むことはできない。現実的に米国債利回りが上昇すれば、円キャリートレードが一層盛んに行われ、結果的にドル高・円安方向になびくこともある。肝心は「当面のドルの上値余地をどこまで見込むことができるか」ということになるわけであるが、今のところドル/円が昨年10月高値を上抜けて一段の上値余地を試す動きになることは想像しにくい。
一方、想定通りに下押してきたユーロ/ドルについては、ここにきて7月6日安値をクリアに下抜けてきたことから、一応は1.07ドル割れの可能性も頭に入れておきたい。ただし、先週25日の安値=1.0766ドル処に今年3月安値と5月安値を結ぶサポートラインが伸びてきていることも要チェックではある。
(08/28 07:00)
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