「エントリー後、決済のタイミングをどうするか」これは、多くのトレーダーが抱える悩みの1つです。トレーディングにおいて、エントリーポイントの選定と同じくらい、あるいはそれ以上に収益を左右するのが「決済のタイミング」です。決済が早すぎるとその後の大きな利益を逃してしまい、逆に遅すぎると得られたはずの利益を失ってしまう可能性があります。
この記事では、ビットコイン(BTC/USD)とイーサリアム(ETH/USD)の日足データを用いた1万回のシミュレーションに基づき、「前日高値ブレイク」というエントリーシグナルが発生した後、統計的に最も優位性の高い保有期間(決済タイミング)はいつなのかを検証します。
本分析の客観性と信頼性を担保するため、以下の前提条件に基づいてデータを精査しています。
データ供給元: 欧州を拠点とし、高い信頼性を持つ流動性プロバイダー「Dukascopy 」のBTC/USD、ETH/USDのヒストリカルデータを使用しています。
分析対象期間: 統計的な信頼性を確保するため、全項目について比較が可能である2021年1月1日から2025年12月31日までの5年間を対象期間に設定しました。
本検証では、単なる過去のデータに当てはめるバックテストではなく、より統計的な信頼性が高い「モンテカルロシミュレーション」という手法を採用しました。モンテカルロ分析とは、乱数を用いて何度も試行を繰り返し、偶然性を排除することで、市場に潜む普遍的な優位性(エッジ)を探るための強力な手法です。
「1万回のシミュレーション」と言われると難しく感じるかもしれませんが、その考え方は非常にシンプルです。
例えば、サイコロを数回振っただけでは、たまたま「1」が連続して出るなど結果に偏りが出ます。しかし、サイコロを1万回、10万回と振り続けると、各目が出る確率は1/6(約16.7%)に限りなく近づいていきます。これが統計的な「真の実力」です。
今回の検証もこれと同じロジックです。 5年間の検証期間の中で、「もしこのタイミングでエントリーし、このタイミングで決済したら?」というランダムな組み合わせを1万通り実行しました。
「たまたま運良く利益が出たトレード」や「運悪く損失が出たトレード」をすべて含めて1万回分を平均化することで、個別のトレードの運不運を排除しています。
今回の分析では、ランダム性を2つの重要な方法で導入しました。第一に、シグナルが出ても10%しかエントリーしない、第二に、決済タイミングを1〜30日後の間でランダムに選択してテストします。エントリー、決済ともに、不確実なルールに基づいたトレードをひとつの「検証セット(2021年〜2025年)」として実行し、それを10,000パターン繰り返します。
これにより、偶然発生したデータではなく、統計的に可能性が高い領域を判断するのに役立ちます。分析の透明性を担保するため、以下のルールに基づいて検証を行います。
対象期間:
BTC/USD: 2021年1月1日~2025年12月31日
ETH/USD: 2021年1月1日~2025年12月31日
シミュレーション回数:
各 10,000回
資金管理:
初期資金: 各1,000,000ドル
1トレードの投資金額: 100,000ドル(固定)
手数料・スプレッド: 純粋な統計的優位性を測るため考慮しない
トレードロジック:
エントリー条件: 当日の終値が、前日の高値を上回った場合
エントリー時のランダムフィルター: シグナルが発生しても10%の確率でのみエントリーを実行(ブレイクした足の終値)
ポジション保有制限: 最大1ポジション(1ポジション = 100,000ドル相当)
決済条件: エントリー後、1日後から30日後までの間で決済(1日後の場合、エントリーの翌日の終値で決済)



Source : Dukascopy
上記のグラフは、横軸に「エントリー後の保有日数」、縦軸に「平均リターン(%)」を示したものです。
このグラフの1本1本の棒がどのような計算過程で作られているか、25日保有のケースを例に説明します。1万回に及ぶシミュレーションの全履歴の中から、25日目に決済したトレードだけを抽出し、以下のようなプロセスで算出しています。
試行1回目: 全トレード履歴から「25日保有」した履歴のみを抽出
試行2回目: 全トレード履歴から「25日保有」した履歴のみを抽出
…(中略)…
試行1万回目: 全トレード履歴から「25日保有」した履歴のみを抽出
このように、1万回の試行ごとに得られた「25日保有時の全結果」をすべて合計し、最終的な総取引回数で割り算(平均化)したものが、グラフに表示されている数値となります。
これを1日後から30日後まで、それぞれの日数ごとに独立して計算を行うことで、どのタイミングで決済するのが最も効率的かを可視化しています。2021年以降のビットコイン(BTC/USD)のデータを用いて分析した結果、前日高値ブレイク後に最も高い平均リターンを示したのは30日後の決済でした。その平均リターンは約3.48%に達します。
| 保有日数 | 平均リターン(%) | 総取引回数 |
|---|---|---|
| 30日 | 3.47717 | 10,575 |
| 28日 | 3.1742 | 10,312 |
| 29日 | 2.9979 | 10,356 |
| 26日 | 2.9434 | 10,317 |
| 27日 | 2.7436 | 10,439 |
| 20日 | 2.2417 | 10,409 |
| 25日 | 2.1983 | 10,323 |
| 24日 | 2.0190 | 10,350 |
| 22日 | 2.0029 | 10,348 |
| 18日 | 1.8767 | 10,678 |
※リターンの大きい順に並べ替え
Source : Dukascopy
データが示す傾向として、保有期間が長くなるにつれて平均リターンが一貫して上昇している点が挙げられます。この上昇トレンドは非常に安定しており、2番目にリターンが高かったのは28日後(約3.17%)、3番目は29日後(約3%)と続き、長期保有の優位性を裏付けています。
この結果は、ビットコインの高値ブレイクが短期的なものではなく、その後の強力なトレンド発生を示唆していることを意味します。短期的な価格のノイズに惑わされず、長期的にポジションを保有し続けることが、統計的に有効な戦略であると言えるでしょう。

次に、2021年以降のイーサリアム(ETH/USD)のデータで同様の分析を行った結果、ビットコインと同様に30日後の決済が最もパフォーマンスが高いことが分かりました。その平均リターンは約5.31%でした。
| 保有日数 | 平均リターン (%) | 総取引回数 |
|---|---|---|
| 30日 | 5.3120 | 10,634 |
| 29日 | 4.6907 | 10,326 |
| 28日 | 4.3020 | 10,406 |
| 26日 | 3.8311 | 10,337 |
| 27日 | 3.8215 | 10,460 |
| 25日 | 3.5564 | 10,387 |
| 24日 | 3.2830 | 10,540 |
| 21日 | 3.1310 | 10,594 |
| 20日 | 2.8552 | 10,614 |
| 23日 | 2.8082 | 10,369 |
※リターンの大きい順に並べ替え
Source : Dukascopy
イーサリアムもビットコインと同様に、長期で保有するほどリターンが高くなる傾向が見られます。2番目に高かったのは29日後(約4.69%)、3番目は28日後(約4.30%)であり、こちらも長期保有の有効性が示されました。このことから、イーサリアムの高値ブレイクもまた、その後の長期的なトレンド発生を示唆しており、短期的な決済が非効率であることを裏付けています。
また、今回のデータからはもう一つ面白い側面が見えてきます。それは、ビットコイン・イーサリアムともに「1日後決済」という超短期の時点ですでに平均リターンがプラスになっているという点です。つまり、ビットコインやイーサリアムは、ブレイクアウト戦略との相性が非常に良いと考えることもできます。
今回の1万回にわたるシミュレーション結果を以下にまとめます。
| 銘柄 | 最適な決済タイミング | 平均リターン |
|---|---|---|
| BTC/USD | 30日後決済 | 3.48% |
| ETH/USD | 30日後決済 | 5.31% |
両銘柄を比較すると、今回のシミュレーション期間においてはイーサリアムのパフォーマンスの方が高い結果となりました。しかし、この分析から導き出される戦略的本質は、「30日」という特定の数字に捉われることではありません。むしろ、ビットコインやイーサリアムにおいては、長期的に保有することが収益性の高いアプローチであるという統計的な証拠です。
参考情報として、保有期間を365日まで延長して同様のシミュレーションを行ったところ、357日後にリターンが最大化するという結果も出ており、長期的なトレンドフォローの優位性をさらに補強しています。

Source : Dukascopy
この統計的優位性を知ることは、トレーダーにとって大きな武器となります。エントリー後、一時的に価格が逆行したとしても、「統計的に優位な期間まで保有する」という根拠があれば、感情的な判断に惑わされることなくトレードを継続できます。なお、本結果はあくまで特定の期間・条件下におけるシミュレーションに基づく分析であり、将来の投資成果を示唆・推奨するものではない点にご留意ください。
本記事の分析結果が、皆様の取引における客観的な判断材料の一助となれば幸いです。
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