心配していた米国つなぎ予算の延長が可決された。まずは政府機関閉鎖は回避されることになった。米国格付け機関・ムーディーズ社の米国格下げ方向への見直しが発表されたばかり、米国の信用力毀損という不安が芽生えてきた中であった。
新下院議長ジョンソン氏(共和党)が、9月末に可決された暫定予算が17日に失効するという切羽詰まった状態で、新たな延長案をまとめた。新しい期日は来年1月19日(一部は2月2日)。ただ、正式な予算案でないので、年明け後に新たな議会審議が必要。これで安心するわけにはいかないが、ともかくクリスマス休暇までは一呼吸ができることになる。
ところで、格付け問題とは、これまで唯一最高のAAA(トリプルA)に格付けしていたムーディーズが見通しを安定的からネガティブに変更したことである。他の有力二社、「スタンダードプアーズ(S&P)」は既に二番目に高い格付けのAA+(ダブルAプラス)で安定的、「フィッチ・レーティングス」も今年5月見通しをネガティブに変えた後、8月にAA+に格下げしている。近いうちにムーディーズ社も格下げを発表するであろう。
ただ、格下げになったところで、実態的に大きな影響は出ないと受け止められている。しかし信用力にマイナス要因が重なると無視はできないだろう。この意味で、つなぎ予算と言えども期日の限られている法案がともかく延長されたことは、市場関係者にとっては一安心である。ただ年明けに米国大統領選挙運動が本格化する中で、予算と言う重要政策として間違いなく論争が再燃する。期日管理はしっかりしておきたい。
さて、金融市場に戻る。CPI後の金融市場は、ダムに溜まっていた水が一気に吐き出されたような勢いであった。発表直後に金利は急低下、ドルも急落、先物市場で米国株価は急上昇(米国NY株式市場は現地午前9時半開始)であった。ドル高の最後の始まり、言葉を換えるとドル売りの始まりになりそうな気もする。
一方で市場には過剰反応と言うケースもある。しかし「相場のことは市場に聞け」と言う言葉があるように、多くは「市場は正しい」と筆者は思っている。では、昨日の相場展開は何を意味するか、思い巡らしてみた。いかにドルロング(ドルの買い持ち)ポジションが大きかったか、であった。
変動が大きかった要因は、すべてが市場予想を下回る結果であったことだった。総合で、前月比フラット(変わらず)となったことが大きい。15カ月ぶりのことである。年率も前月から0.5%低下、3%割れとなると、2021年3月(2.6%)以来となる。一方コアは7カ月連続の低下、2021年9月以来の低水準となった。一番の要因はエネルギーで、前月比が-2.5%と前月の+1.5%から大きく低下、家賃(Shelter)が+0.6%から+0.3%に低下、航空運賃(Airline fares)も+0.3%から-0.9%に大きく下げたことも理由だ。また指数のシェアが44.4%と大きい住居(Housing)が、前月比で+0.5%から+0.1%に低下した(こちらは季調前)ことも挙げられる。
一方で、楽観視できない点もある。パウエル議長が好んでいると言われる「スーパーコア」という項目が低下していない(むしろ加速している)ことだ。これは、一般コアからその他商品(Other goods)と住居家賃(Housing rent)を除いた指数であるが、前月比では+0.6%から+0.2%に低下しているが、足元3カ月を見れば、+4.8%から+4,9%(年率換算)に上昇している。この点でFRB当事者のインフレの見方に関するコメントに注視していかなければならない。
そこで相場予想だが、まずクロス円での円続落。大変に気にしている。ちなみに本日15日に安値を更新したのは、ユーロ円が163.94円(2008年以来)、ポンド円が188.29円(2015年以来)、スイス円が169.83円(史上最安値更新)、豪ドル円98.14円となっている。ドル安=円高ではない面もあることを認識しておきたい。そこで、ドル円は先週より円高の148.00-151.50円、ユーロドルはユーロは堅調に推移すると見て1.0700-1.1000、対円は161.50-164.50円とユーロ高を予想する。また英ポンドドルも1.2250-1.2550とポンド高と予想する。
(2023/11/15、 小池正一郎)