ドル円が147.50円を割ってきた。世界的に注目されてきた日銀の決定会合で、マイナス金利政策が維持されたにもかかわらずである。もっとも今回の会合は注目度が低かった。「賃上げの動向が明確になった後に、政策を変更する」と、植田総裁から度重なる発言があったからだ。それを受けて市場では、「変更するとすれば、3月(会合日3/18-19)以降、確率的には4月(同4/25-26)」との見方が高まっていたからである。
それにしてもこの円高方向への動きは、市場の予想を超える展開ではなかろうか。この要因は、会合後の植田総裁の記者会見にある。筆者が注目したポイントから、今後の植田総裁による発言姿勢の変化を考えてみたい。またドル円相場については、ゆっくりではあるが、ドル円は円高方向に進むと予想しており、売買戦略としては「下がって買い(Buy on dips)でなく、戻り売り(Sell on Rally)」が有効になるのではないかと考えている。
まず、今回の日銀決定会合の内容であるが、声明文では、根幹をなす「長短金利操作」、「資産買い入れ方針」は前回と全くの同文、緩和政策の継続を全員一致で決定した。主要な議論の内容は、1/31に発表される「主な意見」で明らかになるだろうが、その一端は今回の植田総裁の記者会見からも推測できる。
唯一声明文で付け加わったのは、「貸出増加を支援するための資金供給」について、1年間の期限延長の決定だった。内容は、基本要領の期限を令和10年(6月30日)を令和11年に1年延長、これに伴い、貸付実行日の期限を令和6年(6月30日)を令和7年に同じく1年延長したものだ。能登半島地震対策の色合いが出ていることが伺える。
今後に予想される変更メニューとして考えられるものは、①2016年1月に導入されたマイナス金利の解消、②2022年12月から弾力化されているイールドカーブ・コントロール(YCC)の変更で(声明文で「長短金利操作の運用」として決定されている)長期金利の上限1.0%に対し、上限の引き上げや撤廃、③バランスシートの縮小(例:欧米並みの購入証券の減額)、そして④フォワードガイダンスの明確化である。
この中で、特に注目しているには、④フォワードガイダンスの有効活用である。この点は、欧米に比べ日本は見劣りしていると言わざるを得ない。ECBラガルド総裁、FRBパウエル議長の記者会見での発言に比較し、植田総裁の発言は、これまで毎回記者会見のライブ中継を視聴していたが、時として哲学者然として煙に巻くケースが多かったように思う。
今回は、直接視聴することはできなかったが、終了後の発言要旨報道や論評から判断すると、かなり突っ込んだ発言を行ったようだ。この点は次回の変更に向けて地ならしをしたものと判断している。この見方が、円高をもたらしている可能性がある。
では円高を阻止するポイントは何かと言えば、それはやはり米国の金利動向である。元になるのは米国経済。データ重視を謳っているFRBが、ビックリするような好景気を示すようであれば、ドル円はあっという間に150円方向に動く。来週のFOMCでは、現状維持との見方だが、今週発表になる4QのGDPや個人消費支出価格指数には要注意である。
さて、今後1週間の相場予想だが、ドル円は145.50-148.50円と小幅円高を予想。ユーロドルは1.0750-1.0950とほぼ変らわず。また対円では158.50-161.50円と先週と同じ。そして英ポンドドルは1.2550-1.2850と小幅ポンド高と予想する。
(2024/1/24、 小池正一郎)