思えば、前回の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が「(9月公表の)ドットチャートの有効性は会合の合間に低下」と述べたことが発端であった。この発言を受けて、少なからぬ市場関係者は「もはや『あと1回』の可能性は消滅した」との受け止めを示したのである。
その後、米長期金利はジリジリと低下し始め、3日に発表された10月の米雇用統計が弱めの結果となったことが“ダメ押し”になった。前回更新分でも触れたとおり、米10年債利回りが一時4.5%を割り込む場面もあり、金利低下を好感した米国株式市場ではナスダック総合指数が先週8日まで9営業日連続で上昇を続けた。
こうした状況を目の当たりにして、おそらくFRB関係者の多くは「メッセージが誤った形で伝わってしまっている」と感じたことだろう。実際、ここにきて相次ぎタカ派寄りのメッセージが関係者らから発せられるようになっている。
その最たるものが、9日の国際通貨基金(IMF)の討論会におけるパウエルFRB議長の発言。その発言は、基本的にはFOMC後の会見内容とさして変わらないものであったが、そこには「よりタカ派色を出しておかねば」という議長の意思も滲んでいた。
加えて、同日行われた米30年債の入札で投資家の需要があまりにも集まらず、最高落札利回りが4.769%まで跳ね上がったことも大きなサプライズになった。結果、米2年債利回りは再び5%台に乗せ、米10年債利回りも先週末にかけて4.65%台まで水準を切り上げている。
パウエル議長は、インフレについて「昨年半ば以降は鈍化した」とする一方で「依然として目標を大幅に上回っている」とも述べている。いまだ、金融情勢が十分に抑制的であるとの確信は得られておらず、景気には驚くほど耐性があるという点にも触れていた。そんな状況下、市場の“誤解”によって国債利回りが勝手に低下してしまったら、折角の引き締め効果も薄れてしまいかねないとの思いがそこにはあるのだろう。
その意味でも、やはり今週14日に発表される10月の米消費者物価指数(CPI)の結果に対する注目度は非常に高い。なにしろ、足元でドル/円は再び151円台後半の水準まで上値を伸ばしてきている。果たして、今回のCPIの結果によってドル/円が一時的にも「152円手前の壁」を突き向けることになるのかどうか、目先はそこが一つの大きなポイントということになる。
とはいえ、少し長い目ではドル/円の上値も自ずと限られてくると見る。先週9日の日経朝刊には「(米国の)カード延滞率12年ぶり高水準」との小見出しが躍った。今のところ堅調に見える米消費が“借金”で支えられていることは明らかで、その持続力には疑問符がつく。多くのエコノミストが「米経済は第4・四半期に失速する」と見る一方で、日銀は遅くとも来年4月にはマイナス金利の解除に踏み切ると見られており、中期的にドル/円が緩やかな下降トレンドに入ると見るのは決して「的外れ」なことではないだろう。
もちろん、ことのころのユーロ/円やポンド/円の強さにも少々驚かされる。既知のとおり、ユーロ圏の7‐9月期の実質GDP成長率(年率換算)はマイナスに沈んだ。ドイツ経済が新たな構造不況に陥るリスクを経過する声さえ聞かれる。
そもそも、欧州中央銀行(ECB)や英中銀に比べると、FRBの方が長く高金利を続ける可能性が高い。来年は英中銀、ECBの順で利下げの検討が始まる可能性があるとも囁かれている。一方で、日銀の投機緩和の出口はジワリ現実味を増してきている。
よって、個人的にはクロス円に戻り売りを仕掛けるタイミングをじっくり見定めることを基本に相場と向き合いたい。
(11/13 07:00)
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