少し振り返ると、今月5日の米10年債利回りは一時4.10%まで上昇し、市場における米早期利下げ期待は昨年末よりもやや後退する格好となった。既知のとおり、この日は12月の米雇用統計の結果が発表され、非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが予想を上回ったことで、結果、ドル/円が一時146円に迫る場面もあった。
ただ、11月と10月のNFPの数値が下方修正されたことに加えて、12月のNFPの伸びが主に政府部門、なかでも教職員の増員によるものであったということも押さえておくことは重要と思われる。つまり、景気とは直接関係のないところでNFPの伸びが上乗せされていたということである。
加えて、12月は米労働参加率が少々目立った低下となったことも見逃せない。労働参加率の低下は本来、失業率を低下させる一因となり得るものである。ところが、実際の12月の失業率は11月と同水準に留まった。これは「12月の米失業率が実質的に上昇したに等しい結果であった」と捉えることもできなくはない。なお、12月の平均時給の伸びは予想を若干上回るものとなったが、それは、単に低めの賃金水準で働く人の雇用が伸びなかった結果であって、必ずしも米労働需給のひっ迫状態や米インフレ率の高止まりを示すものではないものと思われる。
実際、8日にNY連銀が公表した12月の消費者調査では、1年先の期待インフレ率が3.0%と前月の3.4%を大幅に下回る結果が示されている。その結果、翌9日にはドル/円が一旦143円台前半の水準まで弱含む場面もあった。
ただ、そこは200日移動平均線(200日線)が目先の下値をガッチリ支える格好となり、下げ止まってからは再び反発。その後、アトランタ連銀のボスティック総裁が「引き締め姿勢は崩していない。年末までに2回の利下げを見込む」などとタカ派寄りの発言をしたこともあり、ドル/円は再び144円台を回復した。
そこから、さらにドル/円を強含みにさせたのは、11日に発表された12月の米消費者物価指数(CPI)の予想を上回る内容であった。これを受けてドル/円は一時146円台に乗せる強い動きとなったが、この日の日足ロウソクが結局のところ長めの上ヒゲを伴う陰線となったということは注目に値する。米CPIの強めの結果を得ても、市場の米早期利下げ期待が大きく後退することはなかったわけである。
そうした市場の見方に対して、週末12日に発表された12月の米生産者物価指数(PPI)の結果は追い風となった。その予想を下回る結果を受けて、米10年債利回りは一時3.91%台まで低下。ドル/円は一時144円台前半の水準まで下押す場面があった。
前日の米CPIの結果を受けて一時的に吹き上がったドル/円の水準からすると大よそ2円の下落である。「米国で強気材料が飛び出して、一時的にドルが強く買い上げられた場面は戻り(吹き値)売り」という戦略は、今回も有効であったと再認識させられる。
もちろん、市場における「米利下げ開始は3月から」との見方は徐々に覆されていく可能性が大いにあり、その意味では、今後もドルの下値は堅いと思われる。少なくともユーロ/ドルが上値余地をグングン伸ばしていくようになるとは思えず、むしろ今年に入ってから1.10ドル処手前で2度も押し戻されている事実が印象に残る。
一方、対円でのドルは基本的に底堅いもののジワリ下方向と個人的には見る。年明け以降、大企業の経営トップらは相次ぎ大胆な賃上げに前向きなコメントを発しており、春季労使交渉の方向性が見えてくる4月の政策会合でマイナス金利解除に動くとの市場の見方も強まりやすくなっている。ただ、1月の会合で24年度の物価見通しを下方修正する公算が大きいとの報も耳に飛び込んできており、極端に円高が進む可能性というのも決して高くはないものと思われる。
(01/15 07:00)
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